第8回「学校保健委員会の立ち上げを巡って」

学校・地域の情報共有の場

衞藤 健康問題が学校の中での優先順位が下がるというときに、学校保健が大事であることを学校保健委員会という場でお互いに確認し合い、共有し合うという機能もあります。校務分掌は、大きな組織を運営する上で効率よく、機能的にするためのものだと思いますが、分業体制自体が一つの目的化していくとほかのことには関心を払わないことになってきます。しかし、学校保健委員会がそもそもこういうことをやりましょうという中には、みんなで共有をするという分業の反対方向のベクトルが働いていると思います。そこが、自分たちにとても意味のあることだと、どうやれば構成員が思うかというのが押さえどころになります。

櫻井 先生が言われるように高校は職員室が幾つもあるからか、分業化がどんどん進んで、自分たちの仕事をとにかくやり切らないと、と思いがちです。そんな中、学校保健委員会はいろいろな人に参加してもらうものなのでアピールの場でもあります。地域の代表や保護者の代表、子どもたちを入れずに行っている高校はたくさんあると思いますが、他校の養護の先生たちと話をしても、学校保健委員会をやっていて意味があるのは、学校の中で保健部がどういう方向を向いて、何をしようとしているのかを共有してもらえることが一番だという声をよく聞きます。
本当はそれが地域にも浸透するとすごくいいと思うのですが、なかなかうまくいきません。そんな時には私は地域の情報を得るために、個人的に勉強会等へ行って、地域のドクターや小中の養護の先生、地域の保健師さんと交わるようにしました。それを学校保健委員会の情報として持ってくるのはなかなか難しいですが、自分が出掛けていって得た情報は学校保健委員会の中でも話せるということもあります。ですから、参加していただけなくても、やりようによっては地域の声を会に届けることはできるのではないかと思います。

増山 小学校は担任がクラスを持っているので、子どもたちにその情報をぜひ伝えてあげたいと担任の先生が思ったときには、クラスで絶対に話してくれます。しかし、学校保健委員会の資料や話し合いが、先生方から見て子どもの実態に合っていない必要感のないものあれば、それほどクラスの中でも大切に取り上げてはもらえなくなります。学校保健委員会の運営は、すごく重いものを担っているのかもしれません。

衞藤 学校保健委員会の設置率、開催率はかなり上がってきたといっても、まだできていない学校があるという現実には何か問題があるのでしょうか。

櫻井 自分が教員になったときから今までを考えてみると、会議はどんどん増えたという印象があります。しかし、学校保健委員会をもっと意味のあるものにしていけば、養護教諭にとってはやりがいのあるものだろうし、専門職をいかんなく発揮できる場所になるとは思います。ただ、開催率を上げるために皆さん1回はやりましょうという形になると、養護の先生にも負担感が強いし、データを一生懸命グラフ化して提案だけに終わるとすると、すごく頑張って下準備して、やっと終わったという感じになってしまいます。
校内外に養護の先生が出ていく会議も結構たくさんありますし、保健部として出ていく会議ももっともっとあります。その中の一つに学校保健委員会があるときに、本当に意味のあるものを年3回するということへのプレッシャーもあります。そこから、会議が増えるだけだからいい、忙しいのでいい、子どもの健康のことを話すのは他の会議でもできますという回答が出てくるというのも、一方で現実としてあると思うのです。

衞藤 全体の動きを見るとマイナスになっているところもあります。震災があったので、2年間空いたので増減率が拡大されて見えやすいかもしれませんが、マイナスになっているところがあるというのは、今おっしゃったように会議が増えているということでしょうか。

増山 私はやらなければいけないのだと思っていました。法律で決まっているくらいに思っていたのですが、義務ではないのですね。

衞藤 通知ですね。

濁川 学校保健委員会を多く開催するのがよければ何回もやると思うのです。養護の先生方もいろいろな方法があると思うのです。学校保健委員会を利用して学校の健康課題をみんなと一緒に行うこともあるし、生徒の保健委員会だけを使う方もいるし、職員を使って保健学習や保健指導ほしている方もいるので、必ずしも健康教育に取り組むのに学校保健委員会だけではないと私も思っています。

櫻井 私は学校保健委員会は机がある場所でやるものと思っていたし、例えば課題についてみんなが考える場所こそが学校保健委員会であるという頭がすごくありました。ただ、「本校では虫歯になる子がすごく多いので、一度学校歯科医さんに来てもらって考えてみましょう」というのも学校保健委員会の在り方の一つです。それに、今日は学校保健委員会としてこういうことをやりますよと児童生徒の保健委員会などが話して、校医さんの講演を聴いて、保健委員が進める集会に保護者もいる。これも学校保健委員会の一つのスタイルというのを初めて聞いたときは、すごく驚いたこともあります。
私も行政にいたことがあるのですが、講話のときに校医さんを呼んできてもいいよ、専門でなくてもこれがうちの健康課題だと知ってもらうために会議の場に座っていてもらうこともできるよ、ということを伝えていくことで、設置・開催できたところが増えました。いろいろな学校のいろいろなやり方があるということだと思います。

濁川 よそではカウントしていることも、うちではしていないというのはあると思うのです。うちは校長先生の考えで、講演会は学校保健委員会に入れません。講演会だけでも4〜5回やっていますが、それはカウントしません。たとえ保護者の方が参加していても、それは討議しないことだから入れないで、こういう状態で話し合いをするとなっているので1回なのです。しかし、それをカウントしている学校もあるのです。だから、少ないから、多いからというので中身は測れませんが、でも学校保健委員会は必要です。

衞藤 確かに学校保健委員会はかくかくしかじかのものという取り決めはありません。事例集はたくさんありますが。そこはフレキシブルだと思います。
ポイントは二つあると思います。一つは構成員です。学校保健委員会とは、いろいろな人が、分掌や組織を超えて集まれる場所であるということです。それは生徒や児童がいる場合もいない場合もあります。もう一つは、質的なものだと思います。話し合う中身がきちんと科学的に筋の通ったというか、論理が通っている議論をしないと、ただ時間だけが過ぎてしまいます。その二つの要素はとても大事だと思っています。