第14回「薬物乱用防止の指導」

3 薬物乱用防止教室の実施に向けて

■効果のある薬物乱用防止教室にするために

並木 次に、これまで主に小学校の管理職を務めてこられた井上先生から、小・中学校における薬物乱用防止教室の状況についてお話しいただきたいと思います。

井上 北九州市では、ほぼ100%の小・中学校で年に1回は薬物乱用防止教室を開催しています。平成9年ごろから数年間、文部科学省による薬物乱用防止に係る指導者講習会があり、私は参加したのですが、当時は薬物乱用問題が厳しかった時期だったと思います。このころを境にして、薬物乱用防止教室に対する考え方が変わってきて、北九州でもほぼ全ての小学校で開催するようになってきたと記憶しています。
先ほどの嶋根先生のお話では、たばこを始めるのは13.6歳だそうです。従って、小学校の5〜6年生の段階から開催した方がいいと思います。ただし、事前指導もなく、夏休み前に専門家を呼んで教室を開いて、それで終わりというのでは、消化試合のようになってしまいます。子どもも何となく慣れっこになってしまうので、どうせなら効果的に開催したいと、最近強く感じています。

■管理職を巻き込む

井上 私の立場から言うと、企画の中心となる人が一人で取り組むのではなくて、やはり学校総体として取り組むことが肝心だと思います。なぜ薬物乱用防止教室が必要なのか、どのような内容で、どのような講師を呼ぶのかというところから、しっかり共通理解を図ることが必要です。校内で専門性が一番高いのは養護教諭なので、どうしてもそこに話が回ってきますが、そうなった場合でも自分一人で抱え込んでしまわずに、それこそ管理職を巻き込んで、講師や内容を選ぶ段階から関わってもらうことが重要です。
管理職による理解の程度に差があるかもしれせんが、自分の学校の実態がどうであるか、子どもの実態だけでなく、先生方の実態や意識レベルがどうであるかということも含めて、しっかりと関わっていただくことです。その際、テーマや講師について2〜3案、文章にして提案すると段取りがいいと思います。
ただし、専門家を招くことにはプラス面とマイナス面があります。専門家が来られるということで、子どもたちがわくわくどきどき感を持つ反面、話の内容が専門的すぎたり、鬼頭先生のお話にあったように、発達段階を無視した情報が入ってきたりする場合があります。そういうところも含めて管理職の先生と情報交換をして、さらにその経過を職員会や保健体育部会などで一般の教職員にも報告していくことを積み重ねることで、学校総体として取り組むことができるのではないでしょうか。

■取り組みを継続する

井上 薬物乱用防止教室は1回開いて終わりではなくて、次にどのようにつないでいくかが重要です。そのためにも、管理職には子どもたちの様子も含めて必ず薬物乱用防止教室の現場を見てもらうようにしてください。他の先生方が見られない場合は、可能であれば教室の様子を録画して、夏休みなど少し時間があるときに見てもらいましょう。今、自分の学校ではこのような薬物乱用防止教室を開催しているということを他の先生方に見てもらわないと、翌年はどうするかが見えてこないのです。
また、薬物乱用防止教室は講師の話を一方的に聞くことが多いのですが、質問コーナーを設けたりクイズ形式にしたりして双方向の関係を持ってもらうこと、それから、時間の中で子どもたちに必ず振り返りカードを書かせて、他の先生や管理職が書いたものもまとめて講師に送ることも有効だと思います。手間が掛かりますが、それをするかしないかだけで質が随分違ってきます。
それから、薬物乱用防止教室の感想をいろいろな人に問うことも重要です。可能であれば、保護者や地域の方も呼んだ方がいいでしょう。子どもは大人に囲まれて育ちますから、周りの大人の協力もしっかり得て、どのような感想を持ったかをしっかり捉えて次につなぐことが大切ではないかと思います。

■広報でみんなに知ってもらう

井上 管理職や養護教諭が異動して、薬物乱用防止教室に対する温度差が出る場合でも、取組を継続させるには、「この学校では毎年薬物乱用防止教室に取り組んでいること」を広報することが重要です。熱心な養護教諭であれば、保健室便りなどで、薬物乱用防止教室について保護者や地域の方への声掛けをするでしょう。しかし、それだけでは弱いので、学校通信やホームページなど、ありとあらゆるところでしっかりと広報してもらいましょう。子どもの命やこれからの生き方を守る教室なわけですから、それをみんなに知ってもらうことが重要です。
また、体育主任等校内で理解者や協力者を見つけ、協働してことにあたることも大切です。さらに、各教科との関連を図るためには、どの学年の、どの教科で、どのような学習をするかを見定めることも重要です。
カリキュラムや保健の教科書・指導書を手に入れることから始めましょう。「みんなで一緒にやりましょう」と、とにかく明るく楽しく言っていただけたらいいと思います。