第4回「子どもたちの眼の健康」

 

眼鏡・コンタクトレンズ(CL)

深 山 授業中だけ眼鏡をかける子どもがいますが、その方がよいのでしょうか。

宇津見 子どもは近視が0.6程度の軽度の場合は日常生活ではそれほど困りません。近視で眼鏡をかけるということは遠くがよく見えるということなので、眼鏡を常時かけだしてしまうと、近くを見る時に毛様体が緊張して、近視が進みやすくなります。軽度の近視の場合は、見えないときのみ眼鏡を使用するよう眼科医は指示することが少なくありません。逆に遠視の場合は遠くを見るときも近くを見るときも緊張している状態なので、常時使用するよう指導しています。

 

深 山 スポーツ時の眼鏡装着は危険では、という話を聞きましたが、CLと比較した場合、眼に与えるダメージはどちらが大きいのですか。

宇津見 (眼鏡装用が危険であるというスタンスで説明しています。)眼鏡は安全です。スポーツの時に眼鏡が壊れて眼が損傷するということを心配されてのご質問でしょうが、割れたら危ないガラスのレンズは重く、今はほとんどがプラスチックのレンズですので、それほど心配ありません。
 プロのバスケットボール選手などは保護メガネを使用している場合が少なくないようです。北海道の学校で部活動のバスケットボールの指導者がコンタクトにしろと指導したところがありましたが、日本バスケットボール協会の競技規則第4条には、ほかのプレイヤーが負傷しないように、破損の防止に配慮してある眼鏡であれば日本国内であれば眼鏡の装用は可能であるとのことでした。まあ、サッカーのようなヘディングをする競技や格闘技などでは眼鏡はそもそも向いていませんが、そういうスポーツ以外では眼鏡は逆に眼を守ってくれます。
 次にCLの場合ですが、ソフトCLはスポーツには視野が広く適しています。しかし、CLによる眼障害はとても怖いものです。平成15年度に日本眼感染症学会が実施した感染性角膜炎全国サーベイランスでは、視力障害が生じる重篤な感染性角膜炎症例のCL装用者は41.8%を占め、CL装用が最も高い危険因子であり、10〜19歳の原因の96.3%はCLでした。中高生にはCL装用が重篤な角膜感染症の原因であることを認識させる必要があります。CLはスポーツに便利といいますが、一番の医学的理由としての活用は弱視に対してです。左右で視力が違う場合には、眼鏡だと網膜に映る像の大きさが異なり、物が二重に見えてしまう。そういう場合でも、CLは像の変化が少ないので使用します。スポーツの上級者はCL使用がたしかに多いのですが、子どもの場合は必要ありません。保護者から言ってくる場合もありますが、必要ないと答えています。

 

深 山 それは中学生でも同じですか。やはり保護者から言ってくるときがあるのですが。

宇津見  日本眼科医会が3年毎に実施している全国学校調査によると、小学生のCL使用者は、平成12年度では0.2%、平成15年度では0.1%、平成18年度では0.1%、平成21年度では0.2%です。中学生は平成12年度が4.6%、平成15年度が5.6%、平成18年度が5.9%、平成21年度が6.4%であり、高校生では平成21年度が26.6%です。特に、中学1年と高校1年で使用者が急に増えます。全国の一般のCLによる眼障害はCL使用者の約6.5〜10人に一人の割合で生じています。左右の度が異なる不同視や先天白内障術後や角膜外傷による不正乱視などの医学的な理由でCLを使用せざるを得ない場合を除いて、小学生に対しての処方が消極的な理由は、本人が自己責任を取れない場合が多いからです。小学生本人よりむしろ保護者がCL使用に積極的な場合が多いのですが、ただ眼鏡よりよいからという単純な理由が多いのです。
 私は20年前から小学校の眼科学校医として、約3年間隔で同じ学校現場でCL啓発活動をしています。内容は子どもたちと保護者に対してCLの利点、欠点を講演しています。私の話を聞くと子どもの使用を希望する保護者の数は減ります。良識のある方々ならばですが。臨床の場面でも同様にCLの基本的なことを説明することで本人、保護者は早期のCL使用を希望しなくなります。それに医師には医師の裁量で適切だと思われる場合はCLの処方を拒否してもよいのです。それでもCLにしたい人は、一般眼科に来ずにCL量販店隣接の眼科診療所に行きますね。そういう診療所には一日に平均200人程度の人が来ますが、普通100人超えると患者さんに十分な正しい説明ができません。やはり問題はまだ多いですね。

 

深 山 CLを夜だけ使用して、角膜の形を整え、昼間ははずす、という治療方法をとっている生徒がいますが、それは効果が大きい方法なのでしょうか? 今後は、その方法が増えてくるのでしょうか。

宇津見 寝るときにハードCLを装用することで、角膜を圧迫して角膜のカーブを平坦化することで近視を減らすのです。それによって視力を出す矯正法をオルソケラトロジー(以下オルソK)といいますが、平成21年4月に日本眼科学会はガイドラインでオルソKの適応を20才以上としています。医師の裁量で20才未満にオルソKの処方は可能ですが、もし、ガイドラインを遵守せずに20才未満にオルソKを処方して眼障害が生じ、訴訟された場合は非常に不利になる可能性があるために処方する医師は注意が必要です。日本眼科医会が3年毎に実施している全国学校調査によると、CL使用者の中で、オルソKは小学生では平成18年が11.1%、平成21年が18.9%、中学では平成18年が0.2%、平成21年が0.4%、高校では平成18年が0.2%、平成21年が0.2%で、小学生と中学生は有意に増加していました。確かにこの治療は効果的です。特に子どもは眼球が大きくなる成長過程であり、角膜も変形しやすいので非常に柔軟性があります。しかし、オルソKに用いるハードCLは夜間視力の低下、高次収差の増加、小児のアカントアメーバ角膜炎などの重篤な角膜感染症の報告が散見されます。角膜は血管がない組織なので、涙液中に溶けこんだ空気中の酸素により呼吸をしています。まぶたを閉じることにより、角膜への酸素濃度は、まぶたを開いている時に比較して、約3分の一に低下します。就寝時にCLをすることによりさらに角膜への酸素濃度は低下するために、角膜障害などを合併しやすくなります。つまり、就寝時装用による角膜への影響を含めて視機能未成熟な子どもへの使用は避けた方がよいのです
 一般にCLをすると酸素透過性のよいレンズで富士山の頂上、悪いものだとエベレストの頂上と同じ酸素濃度だといわれています。CL使用によって酸素不足になり、角膜の表面の皮膚が剥げ落ち、そこに汚れたCLを載せることによって感染が起こる。緑膿菌やアカントアメーバはとても怖い。緑膿菌は急激に発症してわかりやすいのですが、アカントアメーバは症状の出方が小さく、診断が難しく治療に抵抗する怖い病気です。以前はあまりない病気でしたが、2007年以降には年間120例以上あるといわれており、失明につながる病気であり、オルソKを使用する子どもにも起きてきています。
 一般に学校現場では、この10年間でCLの欠点を知っている子供は増えてきています。それは養護の先生方や眼科学校医の啓発活動のたまものですが、使い捨てCLを使いまわしていたり、ちゃんとケアしていない人はまだまだ多ですね。

 

上 原 おしゃれのためのカラーCL使用の眼に与える影響について教えてください。

宇津見 先ほども酸素透過性のよいレンズ、悪いレンズの話をしましたが、実は眼をつむるだけで角膜に行く酸素は三分の一に減るのです。以前は房水といって眼の中の水から酸素が角膜に取り入れられると言われていましたが、そうではなく涙液から酸素が行っているということが最近の研究でわかりました。だから目をつむるだけで酸素不足になるのです。みなさんも長い時間寝て起きた時に目がぼうっとしている経験はありませんか。それは眼の酸素不足で角膜に浮腫を生じていて、回復するのに数時間かかります。眼をつむってCLが入っていると余計に酸素不足になり、角膜の表皮がはがれてトラブルが起きやすいということが基本です。一般におしゃれ用カラーソフトCLには度数が入っているものと度数が入っていないものがあって、以前、度の入っていないおしゃれ用のCLは医療用ではなく雑品扱いで、雑貨店でも売っていました。平成23年2月4日からは度数が入っていないおしゃれ用カラーソフトCLは、薬事法で認可されていなければ販売できなくなりました。それまでは海外製を含めて粗悪なレンズがあり、それによって重症な角膜障害などの多発したために法律で規制されました。しかし、カラーCLは色素が入っているために色素の部分は酸素が通りにくいので角膜には酸素不足により障害が発生しやすくなります。一般にカラーCLの使用者はコンプライアンスが低い方(決まり事を守らない)が多く、大人でもトラブルが続出しています。どうしてもカラーCLを使用したい方には、酸素透過性の高い、毎日使い捨てのカラーソフトCLを6〜8時間以内の短い時間に使用する方法がよいと思いますが、それはただし大人の場合だけです。自己責任が取れない子どもたちには推奨できません。日本眼科医会の見解では禁止です。

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