第4回「子どもたちの眼の健康」

 

その他(4)「眼の疲れ」「3D映像の影響」「目やに」

上 原 パソコンや携帯電話の長時間使用における眼の疲れを訴える生徒への対応について聞きたいのですが。

宇津見 近くを見る場合は眼の中の毛様体という筋肉が収縮し盛り上がり、水晶体と毛様体をつないでいる糸状のチン氏帯というものがたるみます。それにより、水晶体は自らの弾性により厚くなり近くにピントを合わせます。近くを見ることにより、毛様体は緊張しているためと長時間近くの画面を見ることにより、見る神経が疲れます。映像や光が入ることによって神経が働きます。まず、基本は疲れたら休む。運動をしたら休むのと同様で眼を使ったら休まなければ、眼痛や疲れが生じるのは当然です。眼の神経は眼を開けていれば、当然、活動をしています。だから休めということなのです。問題は屈折異常を矯正した、適切な眼鏡、コンタクトを使う。たとえば、近視の場合は、遠くがよく見える眼鏡がすべてよい眼鏡ではありません。少し弱めのほうがきつい眼鏡より近くを見たときには眼の中の筋肉の収縮が少ないわけですので。遠視では、遠方も近くも常に眼鏡をしていたほうが、眼は疲れないのです。結局、光が入ることによって神経は休まらない。これが基本です。特にいけないのはテレビゲームです。シューティングゲームなどは瞬きをしなくなる。通常、瞬きは、1分間に約20回しています。たとえばパソコンをするときは、瞬きは約4回から6回、読書では12回くらいに減少します。口を開けていれば口の中が乾くように、パソコンなどをすれば当然眼が乾いてきます。特に携帯電話は字が細かく近づけてみるから毛様体の筋肉が収縮する。それに映像や光の刺激により余計に疲れます。
 眼を休めるのには遠くを見ることにより毛様体の緊張は軽減します。休むといっても、ものを見ていれば休めないのですが、特に携帯電話やゲームなど近くのものは絶対に見ないようにして、テレビや本などを見ないようにすることが簡単な方法です。また、40度くらいのお湯でぬらした蒸しタオルなどで眼を2〜3分暖めると神経が鎮静化するので効果的です。その場合、あまり強く圧迫しないでください。よく目の周りをマッサージする人がいますが、絶対にやめてほしい。眼球は押してはいけません。眉毛の鼻側の下の部分にある、三叉神経を押すと気持ちがよくなりますが、眼球も圧迫されて変形し、網膜などに穴が開きやすくなったりしますので避けてください。アトピー性皮膚炎の方に網膜剥離が多いのは、眼の周りがかゆくてこすりすぎて、眼球を圧迫するのが原因といわれています。冷やすと気持ちはよいのですが、血管が収縮して循環が悪くなります。暖めるのと冷やすのを交互にすることは血液の循環をよくしてより効果的です。

 

上 原 日焼け止めが汗によって眼に入った場合の応急処置についてはいかがですか。

宇津見 日焼け止めが眼に入るとかなりの痛みやしみたりします。特に角膜や結膜に炎症を起こしている場合が多いものです。学校では市販の抗菌性の点眼薬や人工涙液を点眼して必ず眼科を受診させてください。その時に軽度と思っていても悪化することもありますので、注意が必要です。

 

出 川 3Dテレビや3Dゲームソフトと斜視の関係で注意が必要と言われていますが、やはり幼児、小学生は大人に比べて特に注意が必要でしょうか。

宇津見 3D映像は映像技術の進歩と疲れにくいコンテンツの開発により、普及する可能性が高い。日常生活で問題がなくても、輻輳不全や、斜位などの眼科的な素因のある人は、眼精疲労や複視を訴える場合があります。6歳位までの小児は立体視の発達過程にあり、調節性内斜視など、両眼視機能が障害されやすい場合があります。
 学校教育の現場や家庭においても、教材あるいは娯楽として今後ますます3D映像が広く用いられるようになることは間違いないようです。3D映像の視聴が児童生徒の視機能に影響を与える事が懸念されることから、学校現場や保護者への早急な啓発が必要です。
 3D映像が児童生徒の視機能に影響を与えることに関する文献は1988年に1例報告された「立体映画を見て顕性になった内斜視の一症例」がありますが、この症例は4才11ヵ月の男児で立体映画を見に行って、帰宅してから顕性の内斜視が発症し、保存的治療では治らず、斜視手術を施行したというものです。平成23年2月26日には3Dの携帯ゲーム機が発売されて、その影響が危ぶまれています。眼科医からは、徐々にですが、眼精疲労、頭痛、眩暈、酔いなど、患者さんの訴えが聞こえてきています。
 学校関係者のみならず、子どもたちの多くは両眼視機能についての知識がほとんどないのが現状です。3D画像が普及するに従い、両眼視機能が不十分な子どもたちへの差別などが考えられます。しかし、両眼視機能が不十分であっても、日常生活には支障がなく生活ができることなどの啓発活動は非常に重要です。
 現時点での情報から推測した3D映像に関する一般的な注意点を述べてみます。

1.3D映像では立体的に見る機能である両眼視機能が必要である。視機能は6〜8才頃までに完成するが、両眼視機能に関しては、その完成は視力より早期である。そのために視力、両眼視機能が発達する時期に不適切な映像により健全な視機能の発達に影響を与える可能性がある。

2.子どもが3D映像を長時間視聴した場合の視覚発達への影響は不明である。子どもには通常の2D映像であっても長時間鑑賞は不適切であり、3D映像にあっては特に注意が必要である。

3.子どもへの3D映像機器の利用には、ディプレイーから2m以上離れ、部屋の明るさを十分に保ち、点滅映像・幾何学的模様映像を見ないようにし、睡眠不足をさけ、鑑賞時間を短くくぎり、その影響を考慮して利用する。利用には保護者の管理の下に実施して欲しい。

 

田 村 目やにが付いている子どもも見かけることがありますが、連日見られたり、ベタッとこびりついているような目やには、感染のおそれがあるので受診をお勧めしています。充血の場合もそうですが。

宇津見 ご指摘のように眼科受診が必要です。学校保健安全法では学校において流行を広げる可能性が高い「主症状が消退した後2日を経過するまで」出席停止期間とされる第二種学校感染症の咽頭結膜熱と「症状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで」が出席停止期間とされる第三種学校感染症の流行性角結膜炎、急性出血性結膜炎があります。後者では飛沫感染は非常に少なく、接触感染がほとんどです。目が赤いと思ったら眼科に行くよう勧めてください。特徴的なことはウイルスによる結膜炎は目やにはあまり出ません。目やにの場合は細菌による感染が多いのです。細菌の場合は意外と感染しにくく、ウイルスは感染性が強い。充血の赤みがどす黒い傾向があります。養護教諭は直接触れないようにし、もし、子どもが眼をあけない場合など、瞼を触る必要がある場合は、ティッシュなどを用いて行ってください。