第4回「子どもたちの眼の健康」

 

「眼の外傷」

 

田 村 眼をけがした時ですが、受診が必ず必要な場合のポイントなどあれば教えてください。

宇津見 基本的には、医師の判断が必要です。充血、痛み、視力低下など症状がある場合などで、軽度であると思っていても、眼の傷や角膜裂傷などがあるために眼科での顕微鏡にての診察が必要です。

 

深 山 小学生の子が藤の花の種を触って遊んでいたら、それが風や吐息でふわりと舞い上がって眼に入り、とれなくなって病院に連れて行った例を聞きました。この種というのがとっても薄くて、CLのようにぴったりと眼にくっついてしまったということでした。このような場合の応急処置で気をつける点を教えてください。

宇津見 まず、流水で洗い流してください。眼瞼結膜の場合は触れられてもあまり痛くないところなので、手をよく洗ってティッシュの先でとれる場合がありますが、白目のところは眼球結膜、黒めのところは角膜といいますが、角膜は皮膚の300〜400倍くらい敏感であり、少しの傷でも痛みが出ますし、脆弱な組織で、簡単に傷がついてしまいますので、角膜を養護教諭の方が触れるのはやめていただいて、すぐ流水で洗う。目薬、人工涙液でよいのです。けれど、洗い流してもとれない場合や肉眼でついていないと思っていても上眼瞼の裏側に入っていたり、眼科の顕微鏡でみると付いている場合もあるために眼科を受診したほうがよいですね。

 

上 原 眼の表面をガラスで切ってしまった場合の処置についてはどうでしょうか。

宇津見 ガラスによる眼球の裂傷の場合は眼球内までキズが達している場合もあります。その場合は圧迫するだけで、眼の内容物(虹彩、網膜、脈絡膜、硝子体など)が出てしまい失明する場合がありますので、気をつけてください。もし、土などがついているなど感染が考えられる場合は、眼を圧迫しないで目薬程度で洗い流すくらいにして、すぐに眼科を受診してください。ぎゅっと目をつむると眼球が圧迫されるので、注意が必要です。黒目などは傷が大変わかりにくいのです。その時に視力に問題がなく子どもが見えると言っても、傷がたまたま視力に障害のないところにあるという場合もあり、あとで視力障害が出てくる場合がありますので、けがをしたとおもったらすぐ眼科を受診させるようにしたほうがよいです。

 

上 原 外での部活動を行う生徒の中で眼球も日に焼けている生徒がいます。この場合の処置について聞きたいのですが。

宇津見 日焼けというのは紫外線で焼けるわけですが、角膜に多いのは溶接するときの紫外線です。眼球が日に焼けているという判断は、眼が充血しているということだと思います。紫外線により角膜や結膜に軽度の炎症が生じることがあります。また、汗が眼に入る、汚い手で眼をこすったりする場合が少なくないので、保健室の常備薬として人工涙液や市販の抗菌性の点眼薬などをつけて様子をみたらどうでしょうか。もちろん、充血や痛みが強い場合や目やにが出ていれば眼科を受診させてください。

出 川 保健室では目薬は買えないことになっているのですが、応急処置として目薬は効果的ということなんでしょうか。

宇津見 生理食塩水でもよいのですが、一旦開封すると中に菌が入ったりして汚染されるので、いまは医師の処方がないと買えません。水道水も雑菌がゼロではないし塩素もあります。眼科としては一番よいのは目薬、人工涙液ですね。

 

上 原 市販されている目薬を頻繁に使用している生徒への指導内容や生徒自身の留意点はいかがでしょうか。

宇津見 点眼薬には防腐剤といって点眼薬を腐らせない薬剤が入っているために頻繁な点眼は防腐剤による眼表面の障害が生じることがあります。一般に点眼回数は1日5〜6回が限度です。それ以上やると防腐剤による角結膜上皮障害というのが少なくありません。防腐剤が含まれていない人工涙液がありますが、これは1日10回以上使用しても安全ですが、なかには100回以上も点眼する人がいます。30分に1回でも一日に15時間起きていたとして、30回ですので、かなり異常です。度がすぎた頻回点眼は角結膜上皮を守っているムチンなどを洗い流してしまうために、眼表面の障害が生じます。

 

上 原 打撲の場合の応急処置、救急搬送について聞きたいのですが。

宇津見 都市部には必ず救急病院がありますが、毎日やっているところは少ないのが現状です。各医師会で持ち回りでやっている場合などがあります。各地区の眼科医会に聞いてみるのがよいでしょう。また、大学病院は眼科の当直医がおり、緊急の患者さんを診ている場合があります。しかし、大学病院などの特定機能病院は紹介状が無い場合には、診療費用の自己負担分に加えて、保険外併用療養費制度に基づく選定療養費(病院により異なるが、約3000円〜5000円)を自費で支払う必要があります。
 打撲の場合ですが、私が埼玉の病院にいたころ、軟式ボールが当たって失明した子どもがいました。視束管骨折だったのですが、その時の校長先生は「軟式が当たったくらいでそんなはずはない」と言っていました。外から見ても何にも外傷はない。目の中を見ても異常がない。けれども本人は見えない。結局、失明しました。このような事があると、後で学校側の責任が問われますので、学校側は眼科受診をすすめてください。

上 原 そういう場合は冷やしたほうがいいのでしょうか。

宇津見 いや、なにもしないほうがよいです。冷やすと眼を圧迫してしまいます。眼帯もあまりよくない。実はボールによる打撲の場合、硬球より軟球のほうが眼には損傷が大きい。硬球の場合は堅いので眼の縁の骨で止まるのですが、軟球は柔らかいので眼の中に入り込んできて眼球を押しつぶしてくる。硬球は目の周りに丸く痣になりますが、眼の中には影響が意外と少ない。バトントンのシャトルも危ない。サッカーのボールも強い打球ですと眼の中に入ってきます。テニスの軟式ボールでの打撲でも眼の中に出血していたり、網膜に穴が開いたりとか。とにかく、ポイントは眼窩底骨折や視束管骨折などその場ではわからない重篤な場合があるので、打撲をしたら必ず眼科を受診させてください。眼が腫れて開かなくても眼科なら対処できます。