第3回テーマ「学校での応急処置・対応」
  • 学校での眼外傷の傾向と応急処置・対応について
  • 日本眼科医会理事 宮浦 徹
はじめに  学校管理下にあっては、一般社会と比べて災害の発生率はかなり低いと言われています。それでも心身の発育途上にある児童生徒は、成人に比べて危険を回避する能力に劣るため、学校生活の様々な場面においてけがをすることも少なくありません。
本稿では日本スポーツ振興センターの基本統計資料(平成18年度)のうち、眼外傷に係るデータを中心にまとめ、学校での眼外傷の傾向について説明するとともに、眼外傷の応急処置・対応について言及してみます。

学校における傷病の特徴

1.学校における被災率
学校における外傷等の被災率(年間)は、少子社会が進むなかにあっても右肩上がりに増え続けており、学校別では中学校でもっとも高く、高校が最も低い傾向にあります。ただ障害を残す重症例に限れば減少傾向にあり、高校で最も被災率が高いことが知られています。
2.眼部の負傷発生率(眼外傷の発生率)
眼部の負傷発生率は幼稚園でもっとも高く、園児の負傷全体の11.4%を占めています。以後小学校8.9%、中学校7.4%と減少し、高校では5.0%と眼部の負傷発生率が最も低くなります(図1)。これは心身の成長とともに、危険を回避する能力が向上していく過程を反映していると言えます。一方、小学校における負傷の部位別割合を、平成9年度、平成13年度、平成18年度で比較したところ、年度を追うごとに眼部の負傷が占める割合が、6.7%、7.5%、8.9%と増加していることが分かりました(図2)。同じ傾向が中学校、高校でもみられ、危険を回避する能力が低年齢化しているこの現象は、昨今問題視されている児童生徒の体力低下とも関係がありそうです。いずれにしても学校で起きるけがの5 〜 10%ていどは眼外傷ということになります。
3.負傷発生時の状況と原因
学校における負傷発生時の状況は、小学校では休憩時間が51.2%と過半数を占めており、その内容は「遊び」、「ふざけ合い」によるものです。中学校、高校では課外指導(部活)によるものが多く、それぞれ45.4%、52.8%を占め、内容の大半はスポーツ外傷です。眼外傷に限っても同様の傾向と考えてよいでしょう。
スポーツに係わる負傷の多くは球技によるもので、中学校、高校ともに上位4種目はバスケット、サッカー、バレーボール、野球(含ソフトボール)が占め、これだけで球技による負傷の約80%に及んでいます。いずれも人気の球技種目で、競技人口が多いことが影響していると思われます。
それでは眼外傷を招きやすいスポーツ種目を、顔部負傷の発生率が高いスポーツ種目に置き換えて考えてみましょう。顔部の負傷を招き易い球技種目は中学校、高校ともに上位3種目がテニス、野球(含ソフトボール)、バドミントンが占めており、眼外傷を招き易いスポーツ種目といえます。ただ競技人口(部員数)が把握できないため、種目別の事故発生率がわからず、必ずしも眼に危険なスポーツとは言いきれません。
ところで日本スポーツ振興センターが平成18年度に障害見舞金を支給した重症の眼外傷は小中高校を合わせ全国で111件、うち73例(65.8%)がスポーツを原因としたもので、さらに67例は球技種目による眼外傷でした。野球(含ソフトボール)によるものが38例(56.7%)と最も多く、以下サッカーの13例、バドミントンの8例、バスケットボールの3例、ラグビーの3例、その他2例でした。いずれにしても日本全体で、毎年100人余りの子どもたちが学校のけがで目に障害を残しており、これはおおよそ14万人に1人の割合になります。
4.眼外傷の応急処置と対応
眼外傷で保健室に駆け込んだ児童生徒に対し、手際良く応急処置を施し、適切な事後の対応を行うことは大切ですが、決して容易なことではありません。ここでは3つの例をあげて説明させていただきます。
化学熱傷
まず角結膜の「化学熱傷」の場合、酸性、アルカリ性にかかわらず、化学薬品が目に飛入したときにはできる限り早く、大量の水(水道水で可)で洗眼することが何よりも大切です。従ってそれら化学薬品を教室で扱う化学の先生方に対する周知徹底が求められます。眼科医療機関への搬送準備が整うまでに生理食塩水による洗眼を行いながら、化学薬品名と性状を把握しておけば、医療機関での対応がスムースになります。
眼球打撲
次に「眼球打撲」は眼外傷で最も頻繁につけられる病名ですが、原因は多岐にわたり、また程度もさまざまです。先に説明したように、小学生では休み時間での友人とのけんか・ふざけ合いによるものが多く、中高生では部活の球技スポーツによるものが多いことが知られています。保健室ではまずけがをした子どもを落ち着かせ、同伴者などから事故の状況を聞き出してください(本人が状況把握できてないことが少なくない)。一言に打撲といっても、けんかやふざけ合いでは手が当たったり、箒の柄が当たったりすることが多く、スポーツではボールによるもの、ラケットやバットによるもの、また接触プレーが多いバスケットやラグビーなどでは肘や膝による打撲などが多いのが特徴です。いつもどおりに見えているかを確認し、腫れ痛みがあれば冷罨法を行いますが、目を強く圧迫しないように注意しましょう。打撲により網膜に異常を及ぼす場合でも、網膜そのものの痛みはないため、一時の痛みが収まれば受傷した本人はさっさと帰ってしまうこともあります。一見して大丈夫と感じても、できるだけその日のうちに眼科受診をしておくように指導してください。
角膜穿孔
ナイフ、ハサミ、鉛筆の芯など鋭利なものによる受傷では「角膜穿孔」の有無を知ることが大切です。熱い涙が出たという訴えでは、目の中の温かい房水が流出したときに見られる角膜穿孔のサインです。角膜創に茶色の虹彩が挟まって虹彩脱出を起こしていることもあります。閉じた瞼の上からそっと濡れたガーゼを当てるだけにして、決して強く押さえないで、早急に眼科手術のできる医療機関を受診させてください。角膜穿孔を放置すると、眼内の感染を引き起こして失明してしまうため、適切な対応が求められます。

文 献
1)学校の管理下の災害−21.独立行政法人日本スポーツ振興センター,東京.2008
2)学校下の死亡・障害事例と事故の留意点.独立行政法人日本スポーツ振興センター,東京,2008
3)宮浦 徹:学校における眼外傷の傾向と対策.第39回全国学校保健・学校医大会大会誌:249−256,日本医師会,東京,2008