成長曲線〜学校での成長曲線の活用〜

3.学校での成長曲線の活用について

Q.学校(保健室)での成長曲線の活用について教えてください。

A.学校保健としては、平成17年(2005年)度発行の「児童生徒の健康診断マニュアル(改訂版)」で、「栄養不良または肥満・やせ傾向を発見するために身長と体重の発育曲線(現・成長曲線)を活用する。」という方向性がすでに示されています。

それでは学校(保健室)で成長曲線を活用することが必要な理由は次の通りです。

<1> 個々の子ども特有の発育特性を評価することができる。

<2> 「肥満」や「やせ」といった栄養状態の変化、それに加えて病気が原因の低身長、高身長、特に思春期早発症(性早熟症)といって一時的に身長の伸びがよく、子ども本人や保護者も急速に伸びる身長のことをよろこんでいると、早期に身長の伸びが止って、最終的には極端な低身長になるといった病気を早期に見つけることができる。

<3> 身長と体重の成長曲線パターンの変化は目でみてわかるので、子どもおよび保護者がその変化の様子を容易に理解することができる。

<4> 成長曲線パーセンタイル値は、すでに説明したようにその数字の意味が児童生徒本人および保護者に分かりやすい。

<5> 同性、同年齢の体重の度数分布は正規分布しないで重い方に裾の広がりを示す分布をするので、統計学的には平均値と標準偏差で扱うよりもパーセンタイル値で扱う方が合理的である。<5>についてさらに詳しく説明すると、最近のように成人、子どもを問わず国民全体が肥満に傾きやすい状態では、同性、同年齢の体重中央値が実態よりも重い方向に引きずられてしまうことになるので意味はない。同性、同年齢の体重の実態をより正確に捉えるにはパーセンタイル値で表わすのがよいといえる。

成長曲線は、これまでに測定した身長、体重の値を図1に示した成長曲線基準図上に描画することによって、その児童生徒の成長を評価します。その値の推移が7本ある基準線にきれいに沿っていればその子どもの成長は適正であるといえます。

Q.養護教諭の先生方にとって、異常の判定は難しくありませんか。

A.簡単です。成長曲線基準図(図参照)の中にある7本の基準線と基準線の間をチャンネルといいますが、該当する児童生徒の身長あるいは体重の成長曲線がこのチャンネルを横切って上向きあるいは下向きになった場合に異常と判断します。特に2本の基準線を横切ってしまう場合はなんらかの疾患が原因ですので、すぐに対応が必要となります。

図2

図2に示すものは、単純性肥満の身長と体重の成長曲線である。6歳を過ぎる頃から身長の成長曲線はやや上向きを示しているが、正常パターンであるのに対して、体重の発育曲線はチャンネルを横切って上向きになる異常パターンを示している。このような体重の成長曲線が上向きの異常パターンを示し始めた段階で、近い将来肥満になることを予測して対応することが必要である。なお、低身長あるいは身長の伸びの悪化を伴う肥満は病気が原因である肥満の可能性が高い。(「児童生徒の健康診断マニュアル(改訂版)」より・一部改変)

 
図3


図3に示すものは思春期やせ症(女)の身長と体重の成長曲線である。思春期やせ症の場合は測定時の体重が過去の体重を下回った時点で、十分な注意を払い、その後1ヶ月に一度は体重を測定して、3ヶ月にわたって測定時の体重が過去の体重を下回るようであれば、本人と保護者とにこのことを話して、早期に専門的な対応をすることが必要である。ここで示したものは思春期やせ症であるが、測定時の体重が過去の体重を下回ることが3ヶ月以上にもわたって続くことは、思春期やせ症ばかりではなく、他にも何か重大な心身の異常が根底にあると考えなくてはならない。したがって図2のように体重が−20%も減少する前のもっと早い時期に対応することが必要である。(「児童生徒の健康診断マニュアル(改訂版)」より・一部改変)

 

(別途参照:会報「学校保健」282号〜287号掲載成長曲線関連コラム

Q.では、異常がある場合はどうすればいいのでしょうか。

A.成長異常は、早期に発見し、対処すれば、ほぼ元の正常な成長の状態へ戻すことができます。成長曲線に異常がみられたら、養護教諭の先生がご自分で判断したり、一人で抱え込まないで、すぐに専門の医療機関へつなげてください。異常のある成長曲線のグラフを学校医の先生に持っていけば、専門の医療機関を紹介してもらえるなど、仕組みが整えられているところはいいのですが、そうでないところは、地域の医師会に学校保健部会(もしくは学校保健委員会)という組織がありますので、そういう場合にどう対処するのか、それぞれの医師会で早期対応に向けての仕組みを作っていただき、疾患のある子どもたちの受け皿になっていただきたいと思います。

Q.平成26年4月に公布された「学校保健安全法施行規則の一部を改正する省令」では、児童生徒等の健康診断について、座高検査の廃止に伴って、子どもたちの発育を評価する上で、身長・体重の成長曲線を積極的に活用するようにとなりました。今後はどのような活用が期待されているのでしょうか。

A.これまでにも触れてきましたが、個々の児童生徒の成長曲線を描きますと、適正に成長しているか異常があるのかがわかります。異常な成長曲線や肥満度曲線を示す場合は早急に対応する必要があります。ここで、注意しておかなくてはならないのは、適正な成長曲線だと判断した場合です。この場合に今後とも正常に成長していくという保証は何もなく、近い将来に成長曲線の異常を示す可能性を否定することはできないのです。したがって現時点で適正な成長だと判断した場合も、引き続いて成長曲線を定期的に描き、経過をみていくことが重要なのです。

成長曲線を検討するために必要な経過観察のための時間的間隔ですが、定期健康診断は1年に1回4月から6月の間に行われているので、1年に1回の成長曲線は必ず全ての児童生徒について描くことです。特に小学校では学期ごとに身長と体重を測定しているところも多いので、この計測値も用いた成長曲線と肥満度曲線を描くことができれば、それに越したことはありません。異常な成長曲線を示した場合に成長曲線を検討する方法については医師の指示にしたがってください。

Q.学校で全ての子どもたちの成長曲線を描くのは大変な作業だと思いますが、いい方法はあるのでしょうか。

A.たしかに児童生徒が何百人もいる学校では、全員の成長曲線を手作業で描いていくのは大変なことです。しかも、これまでの身体測定の記録を基に作っていくとなると、少人数の学校でもかなり困難を要します。

しかし、現在では、パソコンの普及によって、パソコンを活用して児童生徒の測定値を入力するだけで、自動的に成長曲線が描けるソフトが開発されています。

日本学校保健会では、「児童生徒の健康診断マニュアル(改訂版)」の発行に伴って、平成18年に学校での健康診断の記録を活用して簡単にパソコンで子どもたちの成長曲線・肥満度曲線が描ける「子どもの健康管理プログラム」を作成し、販売しています。(現在販売しているのは2009年6月改訂版)

このソフトはMicrosoft Excelで動作します。児童の「名前、読み仮名、性別、生年月日」を設定し、計測した「計測年月日・実測身長・実測体重・実測座高」を入力することで身長と体重の発育曲線がExcel上で表示されます。また、プリントアウトすることも可能です。ただ、残念ながらこの製品には低身長の疑いのある子どもを抽出するような機能はなく、現場の先生が各児童生徒の成長曲線グラフを基に成長過程を見極めていただく必要があります。

そこで、どこの学校でも、どんな環境でも成長曲線が描け、見逃してはいけない、発育に影響のある児童生徒を自動的に抽出する最新のプログラムが開発されました。この最新プログラムには、「肥満度の最新値が+20%以上」など成長曲線を描く上で問題のある9つの条件が設定されており、その条件に該当した児童生徒が自動的に検出される仕組みになっています。(表1)。

このプログラムについても日本学校保健会が関わって、学校関係者に利用していただけるように検討しているところです。

表1 自動検索結果一覧表(例)
検索結果一覧表元データファイル名:E:\Excel原票成長曲線プログラム演習\最新小学5年生身長体重Excel原票変換.健康管理データ
条件番号条件ID氏名ふりがな性別
<1>身長の最新値が97パーセンタイル以上5-1-022
検索件数 : 2/27 (7.4%)5-1-026
<2>過去の身長の最小値に比べて最新値が1Zスコア以上大きい5-1-007
検索件数 : 2/27 (7.4%)5-1-010
<3>身長の最新値が3パーセンタイル以下5-1-008
検索件数 : 1/27 (3.7%)    
<4>過去の身長の最大値に比べて最新値が1Zスコア以上小さい5-1-024
検索件数 : 1/27 (3.7%)    
<6>肥満度の最新値が+20%以上5-1-010
検索件数 : 2/27 (7.4%)5-1-015
<7>過去の肥満度の最小値に比べて最新値が20%以上大きい5-1-015
検索件数 : 1/27 (3.7%)    
<8>肥満度の最新値が-20%以下5-1-005
検索件数 : 2/27 (7.4%)5-1-020
<9>過去の肥満度の最大値に比べて最新値が20%以上小さい5-1-005
検索件数 : 3/27 (11.1%)5-1-007
 5-1-008