第18回 Q&A「歯と口の健康づくり」

 6月4日から1週間は「歯と口の健康週間」。11月8日の「いい歯の日」と同様、毎年この時期にはいろいろな場面で歯・口の健康にちなんだ啓発活動が展開されていますが、 歯・口の健康づくりは、毎日の生活習慣が基本です。子どもたちが大人になっても自分の歯・口の健康意識を維持するためにも学校での啓発や保健指導は重要な位置を占めています。そこで、今回は、本会の「思春期の学校歯科保健推進委員会」の委員長で、8月6日に 開催します夏季セミナー『思春期の学校歯科保健』研修会の講師でもある明海大学学長の安井利一先生に歯・口の健康づくりに関したいろいろなご質問にお答えいただきました。

 

明海大学 学長 安井 利一 先生
明海大学 学長 安井 利一 先生

1.学校教育と「歯・口の健康づくり」

Q 昔は6月4日が「むし歯予防デー」で、その週を「歯の衛生週間」と呼んでいましたが、いつから「歯と口の健康週間」に変わったのでしょうか?

Q 学校における保健教育に歯や口の健康づくりはどのようにかかわっているのでしょう。

2.「歯・口の健康づくり」の課題と方向性

3.「歯・口の健康づくり」の指導

4.「むし歯」について


1.学校教育と「歯・口の健康づくり」

Q 昔は6月4日が「むし歯予防デー」で、その週を「歯の衛生週間」と呼んでいましたが、いつから「歯と口の健康週間」に変わったのでしょうか?

A. 6月4日の6(ム)と4(シ)にひっかけて、むし歯予防を推進するための日としたのが「むし歯予防デー」です。日本歯科医師会が、昭和3年から始め、昭和13年まで10年間実施していました。語呂が良くて、覚えやすいので、今でも年配の方では「むし歯予防デー」を使う人も多くいます。それ以降、「護歯日」(昭和14年〜昭和16年)、「健民ムシ歯予防運動」(昭和17年)などが用いられていました。その後、暫くの期間、実施されていませんでしたが昭和24年に「口腔衛生週間」として復活しました。近年になって、昭和33年から平成24年までの長きにわたり「歯の衛生週間」が使用されてきました。そして、約50年ぶりに平成25年から「歯と口の健康週間」(6月4日〜6月10日)に変更になったのです。その理由は、平成23年8月に施行された「歯科口腔保健の推進に関する法律」です。この法律は、「口腔の健康が国民が健康で質の高い生活を営む上で基礎的かつ重要な役割を果たしているとともに、国民の日常生活における歯科疾患の予防に向けた取組が口腔の健康の保持に極めて有効であることに鑑み、歯科疾患の予防等による口腔の健康の保持(以下「歯科口腔保健」という。)の推進に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、歯科口腔保健の推進に関する施策の基本となる事項を定めること等により、歯科口腔保健の推進に関する施策を総合的に推進し、もって国民保健の向上に寄与することを目的とする。」を目的として、国民の責務として「歯科口腔保健に関する正しい知識を持ち、生涯にわたって日常生活において自ら歯科疾患の予防に向けた取組を行うとともに、定期的に歯科に係る検診を受け、及び必要に応じて歯科保健指導を受けることにより、歯科口腔保健に努めるものとする」があげられています。

昔は、歯や口といえば、「むし歯」「入れ歯」ということだったのでしょうが、最近では、歯周病と糖尿病との関係や、歯周病と誤嚥性肺炎の関係、あるいは心疾患、動脈硬化などとの関係も研究されており、歯と口の機能が健康寿命に貢献することが明らかになってきました。

Q  学校における保健教育に歯や口の健康づくりはどのようにかかわっているのでしょう。

A. 学齢期は健康づくりの視点からみると、乳幼児期のように保護者等が中心となって健康を管理してくれている時代から、成人期のように健康は自分自身で守り育てる時代への「移行期」にあたっています。健康は概念ですから、子どもには病気の状態は理解できても、健康を理解することは極めて難しいといえます。しかし、学齢期に健康観をはぐくむことは生涯の健康づくりに大きく関係してくることです。文部科学省の学校歯科保健参考資料「『生きる力』をはぐくむ学校での歯・口の健康づくり」(平成23年)に図が示されているように、学齢期に健康観をはぐくむことが将来の国民の健康増進に直結するのです。

 
 

この参考資料に記載のように「一般に健康そのものに対する興味や認識が低い子どもに、病気の実体が見えない生活習慣病を理解させることは容易でない。このことから、鏡を見ることによって体の状態や変化を直接的に観察することができる歯や口は、極めて貴重な学習材(教材)となりうる。歯垢(プラーク)が付着して発生した歯肉炎は、適切な歯みがきで短期間に改善する。放置すればむし歯になり、治療が必要となるような要観察歯も適切な歯みがきや間食の摂取など生活習慣の改善で進行を止めることができる。このような経験は、『自分の体は、自分で気をつけて、大切にすれば応えてくれる』という極めて重要な実感を与えてくれる。」と記載されています。