第4回「子どもたちの眼の健康」
座談会出席者
社団法人日本眼科医会常任理事 宇津見義一 先生
社団法人日本眼科医会常任理事
宇津見義一 先生
名古屋市立城北小学校養護教諭 出川 久枝 先生
名古屋市立城北小学校養護教諭
出川 久枝 先生
茂原市立西陵中学校養護教諭 深山 結花 先生
茂原市立西陵中学校養護教諭
深山 結花 先生
川口市立川口総合高等学校養護教諭 上原 美子 先生
川口市立川口総合高等学校養護教諭
上原 美子 先生
神戸市立盲学校養護教諭 田村 雅代 先生
神戸市立盲学校養護教諭
田村 雅代 先生
 

 

「就学時健康診断、定期健康診断」

事務局 今回の特集「養護のお仕事」は、「子どもたちの眼の健康」というテーマで座談会を開催させていただきます。ご出席者は、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校の養護教諭の先生方と眼科学校医としてご活躍されている宇津見義一先生です。それぞれの養護教諭の先生からのご質問に宇津見先生がご回答をしていただくという形式ですすめてまいります。
 では、まず、出川先生からご質問をお願いいたします。

出 川 それではまず健診について、就学時健診では定期の健診時より時間の余裕もあり、眼位のチェックをぜひお願いしたいと思っているのですが、いいのでしょうか。

宇津見 就学時健診は学校が主体でなく市町村の教育委員会が主体です。市町村の教育委員会の依頼を受けて学校でも実施しています。国際標準に準拠した視力表を用いて左右別々に裸眼視力を検査し、眼鏡を使用している子どもについては、当該眼鏡を使用している場合の矯正視力についても検査します。就学時健康診断は、学校保健安全法施行規則の第三条四項(第六条四項は児童生徒の定期健康診断にも記載)に、視力を測ることになっています。一部地域では、視力検査が行われていないために、平成22年3月には文部科学省から「学校保健安全法を遵守するように」と通知がでています。同じ六項には「眼の疾病及び異常の有無は、感染性眼疾患その他の外眼部疾患及び眼位の異常等に注意する」 と定められています。眼科学校医はそれを知らない場合がありますので、お願いしたほうがよいと思います。視力は六歳から八歳で完成します。実は弱視などの治療は就学時検査では遅いのだけれど、ぜひお願いしたい。もし困ったら地元の眼科医会のほうから言われていると言っていただいてよいと思います。

 

深 山 就学時の時点で遠視の所見が出る児童が時々いるのですが、遠視の治療についてあまり効果がないというお考えの医師の声を聞いた友人がいます。それは遠視の程度によってなのでしょうか? 遠視の扱いについて迷いのある小学校の養護教諭は少なくないのですが…。

宇津見 出生直後の子どもの眼の前後の長さである眼軸長は約18mmで、大人の平均は約24mmです。遠視の方は眼軸が短く、近視の方は眼軸が長いのです。つまり子どもは遠視が多く、成長に伴って眼が大きくなり眼軸が延長します。つまり眼軸が遠視から近視寄りに移動していく、これを眼軸説といいます。眼が大きくなることは止められない。近くを見ることによって眼軸が延びて近視になるということはよく言われますが、これは世界的に一致したコンセンサスは得られていませんが、賛同する学者は少なくないのです。以前は眼が緊張することによって水晶体が厚くなるといわれていたましたが、否定されて、現在は緊張することによって眼軸がさらに延びる説が指示されているようです。近くを見ていれば毛様体が緊張して水晶体が厚くなる。特に子どもの場合は、屈折調節麻痺剤を点眼すると本当の度数がわかる。遠視の子どもは遠くを見ていると眼の中で調節しています。近くを見る場合はさらに調節をする、だから目が疲れやすい。裸眼視力が悪いケースでも実は遠視の子どももいるのです。学校ではその判断ができません。結局、学校保健安全法では視力検査でもって規定している。一番の問題点は、平成14年改訂の就学時健診マニュアルでは、0.7以下の子どもに通知を出すようになっています。平成18年改訂の児童生徒の健康診断マニュアルでは、1.0未満となっています。実は、児童生徒マニュアルでは幼稚園児も含まれているために整合性がとれない。就学時健診の実施率を全国調査をすると、平均して90%は実施しているのですが、一部の都市で80%も実施していないところがありました。これのなにがいけないのかというと、視力の完成は6歳から8歳、6歳から視力検査をして弱視がわかっても重症な場合は治療開始年齢がおそくなり、治らない子が出てきてしまいます。3歳児健診で見つかればよいのですが、健診を受けない子どもが約3割はいます。幼稚園での視力検査では、公立の幼稚園が70%実施していますが、私立では3割ほどしか実施していません。公立の幼稚園はそもそも数が少ない。私立でも幼稚園は法の上では学校なので学校保健安全法を遵守して、やらなければいけません。しかし、私立は管轄が教育委員会でなく自治体であり、都道府県によって管轄が異なり一貫性がありません。また、その管轄部署が視力検査などマニュアルを持っておらず、一部の自治体では健診をよく理解していないで管轄しているところが少なくない。弱視の子どもは全体の約1%、100人に一人はいるとされています。その中には早く治療を受けないと一生視力が出ない子どもがいるので、早期に見つけたほうがよいのです。中には小学校の1年生の春に定期健康診断があるので、就学時健診で眼科健診をしなくてよいという自治体がありますが、実はその6か月間は子どもの眼の機能の発達にとって、とても大事な時期なのです。平成23年3月に日本眼科医会では日本弱視斜視学会と日本小児眼科学会の協力を得て、日本眼科医会の「園児の視力検査マニュアル」を作成しました。その中で年少児、年中児は0.7未満、年長児は1.0未満に対しては、眼科受診をすすめています。さらに詳細な視力検査の実施方法が記載されています。この「園児の視力検査マニュアル」は、日本学校保健会の学校保健ポータルサイト、テーマ別注目記事、眼の健康のところに記載されています。
 話は戻りますが、6歳児では約半数に遠視の子どもがいるということです。遠視が強いと視力が下がります。左右の眼で度数が違う場合を不同視といいますが、これは片方の眼だけが弱視になってしまうことがあります。弱視の治療法として眼鏡をして、片目を隠す治療をして治る場合が多いのですが、それは弱視の程度が軽い場合です。程度が重症ですと6歳以降など治療時期が遅いと治らない場合があります。6歳以前、特に3〜5歳頃に治療したほうが非常に効果的です。また、6歳を過ぎると子どもは遮閉法など治療を嫌がり治療効果が低下します。

 

田 村 視力検査が難しい子どもへの対処として、子どもの好きなものを離れたところに置き、取りに行くかどうかという方法は、どのように思われますか。

宇津見 子どもの好きなものを取りに行かせるなどの興味を持たせるなど、子どもに慣れさせながら検査をすることは大切です。眼科医は子どもの扱いに慣れていますが、病院は怖いというイメージがありますので、幼少時では初めて眼科に来ても視力検査ができる子は少ないのです。学校での視力検査はスクリーニング検査ですので、検査が困難な場合には無理に行おうとはしないで、眼科受診を通知したほうがよいと考えます。眼科では初診時に視力検査が困難であっても、ランドルト環のコピーを持たせて、家庭で練習してもらったりする場合もあります。何度か検査を行うことにより可能となる場合が多いものです。3歳より小さい子どもは気をつけなければいけないですが。

田 村 健診結果ですが、一般校にいた時よりも、特別支援校のほうが「斜視」と言われる人数の割合が多いように感じます。関係ありますか。

宇津見 ご指摘のように全身的な異常を有する子どもたちは、斜視や弱視などの合併が多いものです。よって、学校の先生方にはご承知おきいただければと思います。

 

田 村 他の健診でも同様のことが言えるのですが、特別支援学校では本人の訴えが言葉として表出できない児童生徒が多いので、もっと早く受診できていたら治りも早かったのに、と思うことも多くあります。反対に、早期に発見できても、障害のある子どもたちをゆったりと受け入れてもらえるドクターが多くはないので、病院選びには気を使います。これは、けがをした時の搬送病院選びでも同等の悩みが生じています。今は本校の校医や近くの眼科医の先生がとてもやさしく、そして、子どもたちが落ち着く様に親切に対応してくださるので、少々のけがでも念のために見ていただこうと思って受診をすることができます。このドクターたちに関しては、保護者の方々の評判もよく、乳幼児期の頃から受け入れてもらえる病院探しに切実感をたくさんもっておられる保護者にとってはその度量の大きさに驚かれるほどです。
 現在本校の子どもたちに関わってくださっているドクターのように、障害者医療に関心をもってくださる医師が増え、また、障害者歯科センターのように障害者について学びながら専門的に治療していただける眼科(視力検査含めて)や耳鼻科があればと思います。また、きっとそういうドクターもおられると思うのですが、そういう情報はありますでしょうか。

宇津見 ご指摘のようにとてもよい医師が身近にいらっしゃるのはとても素晴らしいと思います。眼科学校医の場合は、小児眼科を専門としている眼科医が少ないのが現状です。子どもに対してやさしい医師は、大人に対してもやさしく、そのような医師はとても貴重です。日本眼科医会などではそのような先生の把握は困難です。地区眼科医会に問い合わせるのがよい方法であると思います。