第8回「子どもに伝えたい性情報」

性にまつわるトラブルの予防ーもしも性被害に遭ったら

愛育病院 副院長

安達知子 先生

性被害にはたくさんの種類がありますが、今回はその中でも、暴力的性被害である強姦、強制わいせつに焦点を絞り解説します。この2つは、「魂の死」を招くとも言われる極めて凶悪な犯罪であり、肉体の被害のみでなく、心の傷害をも受けるために、今後の人生に多大なネガティヴな影響を与えます。

 

強姦とは、自分の意思に反して、自分の性器の中に男性の性器を挿入されることで、被害者は女性のみです。一方、強制わいせつとは、自分の性器の中に性器以外のものを挿入されることか、自分の性器以外の場所に他者の性器を挿入されることで、少数ですが、男性も被害者になります。

 

平成27年の認知件数は強姦1167件、強制わいせつ6755件、ここ数年両者を併せて一万件弱が報告されています。しかし、その約半分が20歳未満のいわゆる少年(少女も含めた法律用語)で、他の凶悪犯罪の少年被害者が20%未満であるのに比較して、少年が巻き込まれやすい犯罪といえます。更に、12歳以下の子供たちの強姦被害者が、毎年70人前後認知され、性器の裂傷や損傷はおそらく100%あり、性感染症のリスクもありますが、一定の人数が初経を迎えているため、妊娠の可能性も生じています。しかし、この数は警察の認知件数のみです。平成27年の内閣府の調査によると、一般女性のレイプ被害の経験(男性から無理矢理に性交された経験)は6.5%にあるとされ、かなり頻度は高く、性暴力の多くは届け出がなされていないと考えられます。その理由として、加害者が家族、親戚、友人、先輩、指導者、顔見知り以上の関係者であるものが3/4を占めていることがあげられています。また、未成年の被害者が多く、恥ずかしくて、あるいは思い出したくなくて、誰に、または何処に相談してよいかわからなかったなどから、誰にも相談しておらず、そのため認知件数は被害者のごく一部で、性犯罪全体の氷山の一角にすぎないと言われています。

 

日本産婦人科医会は、「学校医と養護教諭のための思春期婦人科相談マニュアル」に性被害に遭ったら、以下のことをするように提言しています。

 

  1. 病院に行って診療を受ける
  2. 被害に遭った時の身につけていたものを未使用の袋などに入れて取っておく
  3. 勇気のいることですが、警察に届ける

 

この内一番大切なことは1です。信頼出来る大人に速やかに伝え、病院に行くのをサポートして貰うことができます。身近にいる直ぐに相談出来る大人は誰なのか、加害者が家族や親戚のことも多く、相談先として担任教師や養護教諭の存在は、大きいものです。また、性被害は繰り返されることが多く、加害者を特定することは大切です。なお、被害者に対して、医療支援は24時間365日必要です。初期診療の内容は、問診、傷害の状況の診察、性感染症検査、暴力的性交後の72時間以内の緊急避妊、証拠物の採取などがあり、その後の妊娠の成立の有無や性感染症のフォローアップ、場合により人工妊娠中絶術などが必要となります。性交後の72時間以内に緊急避妊薬を服用すると妊娠する可能性を84%回避できます。この制限時間を過ぎてしまった場合は、120時間以内ならば、銅付加子宮内避妊器具を挿入することで99%妊娠を回避できますが、妊娠したことのない少女にはなかなか大変な処置になります。

 

さて、少女たちに相談を受けたら、まずは、よく相談してくれたとその勇気をほめ、医療機関の受診が必要なことを話してください。本年6月の時点で、32各都道府県には、原則1つの性暴力被害者ワンストップ支援センターがすでに設置されており、直ぐに警察に届けられない場合には、このセンターに連絡してください。被害者支援員がいて、医師・心理士・弁護士や複数の機関との連絡・連携などあらゆる分野に支援が広がり、初期の対応のみでなく、中長期的な支援に繋げてくれますし、支援員が付き添って受診や警察への通報などを支援することも可能です。または、各自治体の犯罪被害者相談窓口に連絡し、適切な医療機関を紹介してもらうこともできます。警察への通報はもちろん重要ですが、本人の意思が尊重されます。通報した場合は、診療費は原則的に警察署等へ請求され、自己負担はありません。

 

言葉掛けは、あなたは何も悪くない、悪いのは加害者だと繰り返してください。被害に遭うきっかけになった行動を注意したり、なぐさめたり、アドバイスしたり、元気そうだとか、この程度で済んで良かったなどの安易な言葉は、セカンドレイプになるため、決して言わないでください。

 

医療機関の受診をためらう場合は、妊娠を回避する必要性や性感染症の検査、予防、早期発見や治療の必要性を丁寧に説明して、医師の診察を受けるのを励ましてあげてください。また、妊娠してからはじめて打ち明けられる場合もあるでしょう。普段の授業の中で、性行為と無月経などの妊娠を疑う兆候やその際の行動についても教えておく必要があるでしょう。できれば、性被害に遭わない為にどのようなことに注意べきか、信頼できる大人に相談するにはどうしたら良いのか、などについて、子供たちが自分たちで話し合う機会を設けておくのも良いでしょう。

 

繰り返しますが、子供たちが学校、学校医や養護教諭に相談しやすい環境を整え、また、学校関係者がワンストップ支援センターの存在や連絡方法を確認しておくことは大切です。さらに、医療機関をはじめ、支援センターと学校、学校医、養護教諭がネットワークを作り、性被害やそれによる健康障害から子供たちを守っていく体制をぜひ作って頂きたいと思います。