歯と口からの健康支援

わかりやすい歯科指導 例え話の応用

モンゴル医学・科学大学 客員教授

元岡山大学病院 小児歯科

講師 岡崎好秀

不特定多数に話すときには,小学校3年生がわかるように話す

むし歯や歯周病の話をする時のキィワードは“歯垢”です。“歯垢”がむし歯や歯周病の原因となるためです。ところで,あなたが“歯垢がどのようなものかを理解できた”のは,いつ頃でしょう?(図1 歯垢

歯垢を専門用語で伝えると,大人は分からなくても聞いてくれますが、子どもは,そうはいきません。わからないと教室が騒がしくなります。子どもにとって,わかりやすい話しが重要です。

さて,“不特定多数の人達を対象に話をするときには,小学校3年生の子ども達がわかるように話をすれば,誰もがわかる”という話し方の鉄則があります。この時期は,精神的にも具体的概念の世界から抽象的概念の世界へと大きく発達する時期です。

子ども達が,“歯垢”のイメージがわきにくいのは,抽象的な言葉であるためです。

そこで,抽象的な専門用語を具体的な例に置き換えて話す,つまり“例え話”を使って説明すると理解が容易になります。

歯垢をわかりやすく伝えると

歯垢の場合は,以下のようになります。

“○○君は,ゴハンを食べたらウンチやオシッコをしますね。口の中にいるむし歯菌(ミュータンス菌)は,○○君が食べた砂糖を,今度は口の中で食べてウンチやオシッコをします。このウンチがネバネバして歯にくっつくと同時に,むし歯菌のオシッコである酸が歯を溶かし、むし歯ができるのです。”(図2

いかがですか?断然わかりやすくなります。このように小学校1年生に話をすると,次の年には「それ覚えている!むし歯菌のウンチでしょう!」という言葉が返ってきます。“わかりやすい言葉”が、いかに重要かわかります。

例え話を用いることで“なるほど~!”・“へえ~!”・“ほう~!”・“そうだったのか!”と思わせるように伝えます。もちろん“例え話”を作るのには,それなりによく事象を理解する必要があります。

歯垢と食べカスの違い

それでは歯垢と食べカスの違いは,どうでしょうか?

*台所に置いてある三角コーナーに生ゴミを入れておくと、ヌルヌルした汚れが付きます。水道の水をかけると生ゴミは取れますが,ヌルヌルは取れません。しかしスポンジやタワシでこすると,ヌルヌルは簡単に取れます。歯垢は、このヌルヌルと同じです。つまり食べカスと歯垢との関係は、生ゴミと三角コーナーに付着した汚れと同じ関係です。(図3

例え話あれこれ

他にも例え話の例を上げてみましょう

*「生えたての歯は,むし歯になりやすい」ことを伝える

“たけのこと竹の関係” :たけのこは生えた直後,軟らかいので食べることができます。しかし竹になると硬くなります。歯も同じように萌えた時は軟らかくむしになりやすいですが、だんだん硬くなりむし歯になりにくくなるのです。(図4

*“流したてのコンクリート”:流したてのコンクリートは遠くから見ると固いかどうかわかりません。でも足で踏むと穴があいてしまいます。生えたての歯も同じように、固く見えます。しかし実際には流したてのコンクリートのように軟らかいのでむし歯になりやすいのです。(図5

*萌える途中の第1大臼歯の歯磨きに対し,小さな歯ブラシの方が良いことを勧める

「今,コップがあります。汚れがたまりやすい所,汚れが取りにくいところは,コップの底面のまわりです。この部分の汚れを取る時には,大きい歯ブラシと小さい歯ブラシではどちらが良いでしょう?(図6

これに対し小学校中学年以降の子ども達は,小さい歯ブラシと答えます。コップを横に向けると,口と同じです。

だから第1大臼歯は 小さい歯ブラシの方が良いのです。(図7

*歯垢染色剤がなくても,完全に磨ける方法を伝える。

水が1/3位入った透明なコップを用意します。 そして歯みがき剤をつけない歯ブラシで歯を磨きます。そして歯ブラシをコップの水で洗いながら磨きます。するとコップの水は徐々に汚れてきます。

汚れた水は捨てて,新しい水に入れ替え歯磨きを続けます。これを数度繰り返すと水は濁らなくなります。これで完全に磨けたのです。この方法は、自宅でも出来る簡単な方法です。(図8

*前歯の歯垢が付きやすい部分を伝える。

コップが机の上に並んでいると仮定します。すると,汚れが溜まり易いのは,コップと机の境目(歯と歯グキの境目)とコップとコップの間(歯と歯の間)です。この部分はむし歯になりやすいので,ていねいに磨きましょう。(図9

このように例え話を利用すれば,抽象的な専門用語をわかりやすく伝えることができます。“子どもだから”,わからないだろう・・。ではなく、“子どもだからこそ”,わかりやすい話し方が重要です。

参考文献

岡崎好秀:なるほど ザ保健指導 クインテッセンス社 1996年

岡崎好秀:楽しさ100倍! 保健指導クインテッセンス出版2000年