成長曲線〜学校での成長曲線の活用〜
  1. スポーツ無月経


公益社団法人 日本産婦人科医会
女性保健委員会 委員
四季レディースクリニック 院長
江夏 亜希子 先生
  1. 月経の基礎知識
  2. 女性アスリートの三主徴
  3. 予防と治療
 

■月経の基礎知識

月経とは、「約1ヶ月の周期で起こり、限られた日数で自然に止まる子宮内膜からの周期的出血」と日本産科婦人科学会では定義し、正常月経とは、初経10〜14歳(平均12.5歳)、周期は25〜38歳(変動±6日以内)、持続は3〜7日(平均4.6日)、月経血量20〜140mlの範囲にあり、初経以前、閉経後、妊娠・産褥・授乳中の無月経は生理的なものとされます。

月経とは、このように「出血」に注目が集まりますが、本来は妊娠に備えるためのものであり、出血よりも排卵できたかどうか、それに伴うホルモン分泌が適切に行われているかが重要です。

男性が生下時には精子を持たず、思春期から精子を作り始め、年齢とともに減少はするものの一生精子を作り続けられるのと対照的に、女性は、生下時に約200万個の卵子を持っており、その数は年齢とともに減少の一途をたどります。初経を迎える10歳頃には約50万個、20歳で約10万個、40歳で約1万個、そして50歳前後(45〜56歳)で0個になり閉経を迎えます。思春期に身長スパートを迎え、体脂肪が17%を超える頃になると、間脳の視床下部−下垂体からのゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン;LH(黄体形成ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン))の分泌が始まり、初経を迎えます。

月経の仕組みを復習しておきましょう。月経が始まると下垂体からFSHが分泌され、卵巣では毎月1個の卵子を選ばれます。その卵子の成熟とともに周囲にできる卵胞からは女性ホルモン(エストロゲン)が分泌され、それが子宮内膜を厚くします。卵胞が十分大きくなってエストロゲン分泌がピークとなり、内膜が十分厚くなったところで、下垂体からはLHが分泌され、卵胞が破裂するように卵子が卵管に向けて放出されます。これが排卵です。排卵後の卵胞跡には黄体ができ、そこから分泌される黄体ホルモン(プロゲステロン)が子宮内膜を妊娠に備えて維持しますが、排卵後2週間待っても妊娠しない場合、黄体は退縮してホルモン分泌を中止します。すると子宮内膜は維持できなくなって子宮から出血として剥がれ落ちます。これが月経です。

この視床下部―下垂体―卵巣―子宮のどこかに異常があれば、無月経や月経不順の原因になるのです。

■女性アスリートの三主徴

スポーツは本来体によいものといわれますが、過度なスポーツは様々な弊害を起こします。近年、男女を問わずスポーツによる健康障害の最大の原因として注目されているのが「low energy availavility」(利用可能エネルギー不足)」です。スポーツトレーニングは相当のエネルギー消費があります。体調を崩すことなくトレーニングを進めていくには、それに応じたエネルギー摂取が必要なのは自明なのですが、不適切な食事制限が行われることが多く、そのために、免疫、発育、血液(貧血を含む)、内分泌、代謝、そして精神面など、様々な悪影響を及ぼします。

女性の場合は特に、過度なスポーツが初経発来遅延や無月経の原因となることがわかってきました。この場合の無月経は、排卵に伴う女性ホルモン分泌が停止してしまうことが問題となります。女性ホルモンの中でもエストロゲンには骨を丈夫にする作用があるため、骨粗鬆症を引き起こしてしまいます。この「エネルギー不足」「無月経」「骨粗鬆症」のことを「女性アスリートの三主徴」と呼び、体重が軽いことが有利とされる審美系の競技(器械体操、新体操など)や、陸上長距離などで起こりやすいことが知られています。なお、以前は「摂食障害」とされていましたが、2007年以降、摂食障害の有無を問わず「エネルギー不足」と改められました。

骨密度は、本来、男女とも18歳頃にピークとなり、その後は徐々に低下します。女性の場合、閉経後はさらに急激に低下し、骨粗鬆症を起こしやすいことが知られています。10代から栄養不足に加え無月経(低エストロゲン状態)が続くと、最大骨量が十分に得られないことが予想されます。その状態で過度のトレーニングを行うことは、疲労骨折を引き起こし、選手生命どころか、引退後の健康にまで悪影響を及ぼすことが懸念されます。なお、アスリートの疲労骨折の好発年齢は16歳というデータがあり、最大骨量を獲得する前に骨に過剰な負荷をかけることのリスクを認識しなければなりません。

■予防と治療

月経は女性の健康のバロメーターとも言えます。10歳前後から競技を始めた場合、初経がきているか、その後の月経は順調にきているか、保護者や指導者が把握することが大切です。

15歳になっても初経を迎えない場合は、上記の運動性のもの以外に、染色体異常や子宮・膣欠損などの異常も考慮しなければなりません。また、初経を迎えた後、長期の無月経を放置することは、上記のように骨への悪影響を及ぼすほか、治療抵抗性が高まることが知られています。3ヶ月以上無月経は放置しないことが大切です。これらの場合は産婦人科受診をおすすめします。

産婦人科での診察(ホルモン検査や超音波検査など)の結果、低体重や体重減少による低エストロゲン状態と判断された場合、まずは適切な体重まで回復させることが望まれます、アメリカスポーツ医学学会では、適正体重に戻しても1年以上無月経が続く時にはホルモン補充療法を考慮する、としています。

過度な食事制限は、低体重を招くばかりか、摂食障害を引き起こし、いったん摂食障害が起これば回復には数年単位の時間がかかるのが普通です。まずは運動量に見合った栄養補給も重要なトレーニングの一つであること、不要な食事制限をしないことを心掛けなければなりません。