第13回「学校での食物アレルギー・アナフィラキシー対応」

 近年、増え続けている子どものアレルギー疾患。疾患のある子どもが安全に安心して学校生活が送れるように、本会では、平成20年に「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」を発行して、学校での取組をすすめています。特に食物アレルギーでも子どもの生命にかかわるアナフィラキシーを発症する可能性のある子どもには、学校生活管理指導表(アレルギー疾患用)を通じて、適切な対応が求められています。
 そこで、今回の特集では、食物アレルギー・アナフィラキシーにスポットを当て、国立相模原病院の海老澤元宏先生にお話しを伺いました。

(聞き手・文作成/公益財団法人日本学校保健会事務局)

海老澤 元宏 先生
インタビュー:海老澤 元宏 先生
(国立病院機構相模原病院臨床研究センターアレルギー性疾患研究部部長)

1.食物アレルギー・アナフィラキシーとは

1-1食物アレルギーについて

1-2食物アレルギーの症状

1-3アナフィラキシーについて

1-4食物依存性運動誘発アナフィラキシー

1-5子どもにアナフィラキシーが起こったら

2.食物アレルギー・アナフィラキシーに対する学校での留意点

3.アドレナリン自己注射(エピペン®)の使用について


1.食物アレルギー・アナフィラキシーとは

1-1食物アレルギーについて

食物アレルギーイラスト

 食物アレルギーとは、日本小児アレルギー学会の「食物アレルギー診療ガイドライン2012」に、「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象」をいうと定義されています。

 食物アレルギーでまず理解していただきたいことは、子どもの成長過程によって臨床型や頻度の高い食物が違うということです。

たとえば、原因食物摂取後、通常2時間以内に出現する「即時型食物アレルギー」では、乳幼児期は鶏卵、牛乳、小麦、そば、魚類、ピーナッツなどが頻度の高い食物ですが、鶏卵、牛乳、小麦はその後の成長に伴って3歳までで50%、小学校入学までには80〜90%が耐性を獲得するといわれています。ところが、学童から成人期となると、甲殻類、魚類、小麦、果物類、そば、ピーナッツなどの食物の頻度が高く、乳幼児期の発症に比べると耐性の獲得は低くなります。そのほか、児童生徒に関するものとしては、特殊型として原因食物を摂取後に運動を行った時に引き起こす「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」や果物や野菜による抗体が介して口唇・口腔粘膜に接触することでじんましんが起こる「口腔アレルギー症候群」があります。

1-2食物アレルギーの症状

 食物アレルギーの症状は表の通りです。

 特に即時型食物アレルギーでは、皮膚症状と粘膜症状がもっとも頻度が高い症状ですが、アナフィラキシーショックを呈することも多いので、注意が必要です。

症状 内容
皮膚症状 掻痒感、じんましん、血管運動性浮腫、発赤、(湿疹)
粘膜症状 眼症状(結膜充血・浮腫、掻痒感、流涙、眼瞼浮腫)
鼻症状(くしゃみ、鼻汁、鼻閉)
口腔咽頭症状(口腔・口唇・舌の違和感や腫脹、咽頭の痛み・イガイガ感)
消化器症状 腹痛、悪心、嘔吐、下痢、血便
呼吸器症状 咽頭絞扼感、咽頭浮腫、嗄声、咳嗽、喘鳴、呼吸困難
全身性症状 アナフィラキシー(多臓器の症状)
アナフィラキシーショック(頻脈、虚脱状態、意識障害、血圧低下)

1-3アナフィラキシーについて

 アナフィラキシーとは、食物や薬物、ハチ毒などが原因で皮膚や呼吸器、消化器など多臓器にわたって全身性に症状が現れる即時型アレルギー反応の総称で、時には血圧低下や意識喪失などを引き起こします。このように生命にかかわる危険な状態をアナフィラキシーショックと呼びます。

1-4食物依存性運動誘発アナフィラキシー

 食物依存性運動誘発アナフィラキシーが心配される児童生徒には、原因物質の摂取から2時間(可能なら4時間)は運動を控えるようにしてください。ただ、必ずしも全面的に運動を禁止する必要はなく、原因食物を摂らなければ運動は可能です。

 児童生徒に限ったものではありませんが、小麦の入った石鹸で特に成人で発症する小麦アレルギーは、この食物依存性運動誘発アナフィラキシー例が多いということです。

1-5子どもにアナフィラキシーが起こったら

 アナフィラキシーの進行は早く、アドレナリン投与を含めて迅速な行動が要求されます。特に呼吸器に症状(口腔咽頭の絞扼感、嗄声、犬吠様咳嗽、嚥下困難、呼吸困難、喘鳴、チアノーゼ、呼吸停止)がある場合や不整脈、血圧低下、頭痛、死の恐怖、意識消失などがある場合は、アドレナリン自己注射(エピペン®)が第一選択となります。エピペン®に関しては、後ほどまたお話ししますが、「迷ったら打つ」ようにしてください。その後、専門の医療機関を受診(必要なら救急車を使用)させてください。