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学校欠席者情報収集システムの活用事例―集団食中毒発生時の対応―

集団食中毒発生時の対応

広島市教育委員会学校教育部健康教育課
指導主事 山根 由加理
(会報「学校保健」308号 H26年9月発行号より)

1 導入

平成25年12月、本市においては、市立の幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校(以下「学校等」という。)について、日々の欠席者情報や市内の感染症の発生動向をリアルタイムに把握し、インフルエンザ、ノロウィルスなどの感染症への早期対応を行うため、「学校欠席者情報収集システム(学校欠席者サーベイランス)」を、市域の医師会と連携して導入した。

2 日常的な活用

市域の全ての学校等が、毎日、パソコンを使ってインターネット上のシステムにアクセスし、幼児児童生徒の健康観察の結果を入力している。

 そのため、学校等・学校医・行政の関係者は、市域全体における感染症の発生や広がりの状況はもとより、学級閉鎖の状況についても、パソコンの画面上でリアルタイムに把握することができる。

 

3 集団食中毒発生時の対応

本システム導入から1カ月半後の平成26年1月24日、中学校10校において学校給食(デリバリー給食)を起因とする集団食中毒が発生した。終息には、12日間を要し、患者数は生徒280名、教職員21名、合計301名に及んだ。

この集団食中毒発生における本システムの活用について紹介する。

(1)状況確認

1月24日の朝8時20分、教育委員会に中学校1校から「多数の生徒が腹痛・下痢で欠席している。体調不良者はデリバリー給食を食べた生徒に多い。」との電話連絡が入った。(本市では、デリバリー給食は希望者のみ喫食。)

すぐに教育委員会からその中学校および同じ業者のデリバリー給食を喫食している中学校(全10校)へ、欠席状況の確認と本システムへの早急な入力を指示し、本システムの画面上で、各校の欠席者数の確認やその症状の把握を行った。

その後、さらに詳しい状況を把握するため、システム画面において、市域全体の「欠席者・出席者推移グラフ」を確認したところ、本市の全ての学校等(238校。うち中学校64校。)のうち、該当中学校10校においてのみ、1月24日に下痢・腹痛による欠席者が急増していることが確認できた。このことは、原因をデリバリー給食による食中毒に絞り込む一つの根拠にもなった。

また、該当校10校においては、それぞれの欠席者の状況等を速やかに情報共有した上で、学校医の判断を仰ぐことができた。

(2)二次感染の探知

集団食中毒発生以降、兄弟姉妹間の家庭内での二次感染や、友人間の校外での二次感染の拡大の有無を探知するため、近隣の学校等の状況を日々確認した。この確認作業についても、本システムを活用することにより、迅速に行うことができた。

(3)注意喚起等

本システムは、トップページに教育委員会からの連絡事項や注意喚起文を掲載することができる。

このたびの食中毒発生時には、トップページにその情報を掲載することで、該当校や近隣校のみならず、全市域の学校等への情報提供及び食中毒予防についての注意喚起を行うことができた。

また、各学校等(特に該当校10校の近隣校)においては、食中毒が終息するまでの間、本システム上で把握した該当校の状況を踏まえながら、児童生徒および保護者に対し、具体的な予防対策の提示や注意喚起を行うことができた。

4 成果

以上のように、本システム導入により、感染症や食中毒について学校等・学校医・教育委員会の迅速な情報共有が促進された。

また、本システムが導入される前は、感染症や食中毒等が発生した場合、学級閉鎖や学校閉鎖を行った場合、学校等は、体調不良者への対応と並行して様々な報告書を提出する必要があったが、導入後は、そうした書類作成がオンライン上で簡単にできるようになり、学校医や教育委員会も状況の把握および学校等への指示が迅速に出来るようになった。

さらに、出席停止の書類が自動作成でき、学校等の業務の効率化にもつながっている。

今後も各学校等における適切な日々の健康観察を基に、感染症や食中毒の発生や流行の兆しなどの早期発見に努めるとともに、本システムを活用した保健指導等の充実や予防の取組の充実を図っていきたい。

掲載日時:2014/11/27