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「大人の風疹が及ぼす子どもへの影響」―先天性風疹症候群とわが国の風疹含有ワクチンの接種状況―

国立感染症研究所感染症疫学センター
多屋馨子

風疹とは

 風疹は発熱、全身性の発疹、リンパ節腫脹を主症状とするウイルス感染症である。3つの症状が伴わない場合が多く、発熱はあっても微熱程度のことが多いが、40℃以上の高熱となることもある。血液検査等で風疹であることを確認することが大切である。感染しても症状が出ない不顕性感染が15~30%(~50%)程度存在する。

 合併症としては血小板減少性紫斑病や脳炎があり、入院加療が必要になることがある。大人が発症すると関節痛を訴える頻度が高い。

 飛沫感染・接触感染で感染伝播するが、空気感染はしない。

先天性風疹症候群とは

 風疹ウイルスに対する免疫がないか、あっても不十分な妊婦が風疹ウイルスに感染すると、胎児にも風疹ウイルスが感染して発症することがある疾患で、児の眼、耳、心臓に障害を残すことがある。感染した妊娠週数により児の症状や出現頻度が異なる。妊娠初期では発症頻度が高く、複数の症状を持つ場合が多いが、妊娠4か月以降では難聴と網膜症のみの場合が多い。妊娠20週を過ぎるとほとんど発生はない1)。先天性風疹症候群の臨床像を表1に記載する2)

表1 先天性風疹症候群の臨床像
(Maldonado YA. (2012) : Rubella virus. In: Principles and Practice of Pediatric Infectious Diseases (4th ed.): Long SS, Pickering LK, Prober CG (Eds). より引用翻訳)画像をクリックすると大きく表示されます。
 

風疹の発生動向

 風疹は2008年以降感染症法に基づく5類感染症全数把握疾患で、すべての医師に届出が義務づけられている。2007年までは全国約3,000カ所の小児科定点(小児科を標榜する診療所あるいは病院)からの報告であったため、大人の患者数は正確には把握できないが、今回の流行の前にあった2004年の流行時の年齢分布を見ると(図1)、小児科定点からの報告にも関わらず、大人の割合が年々大きくなっていたことがわかる。

図1 風疹患者の年齢分布
(2000年~2004年第48週)
(感染症発生動向調査より)
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 2005年以降風疹の流行は抑制されていたが、2011年に始まった風疹ウイルスによる小規模な地域流行は、2012年に全国流行となり、2013年は更に規模を大きくして全国に広がった。2013年第37週までの患者報告数は9月18日現在14,033人(暫定値)で(図2)、流行の中心は予防接種歴無しあるいは不明の成人で、男性が女性の約3倍である(図3)。

 
図2 風疹患者報告数
(2008年~2013年第37週)
(感染症発生動向調査より)
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図3 年齢別接種歴別風疹累積報告数
(2013年第1ー37週)
(感染症発生動向調査より)
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わが国の風疹含有ワクチン定期接種状況(図4)

図4 風疹含有ワクチンの定期接種状況
(2013年10月1日現在の年齢)
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 1977年から女子中学生を対象に風疹ワクチンの定期接種が始まった。女性のみの接種では流行はコントロールできず、数年毎に大規模な全国流行を繰り返していた。1989年4月~1993年4月までは、生後12~72か月の男女幼児を対象とした麻疹ワクチンの定期接種の際に、麻疹風疹おたふくかぜ混合(MMR)ワクチンを選択しても良いこととなったが、おたふくかぜワクチン株による無菌性髄膜炎の多発によりMMRワクチンの接種は中止となった。

 1994年に予防接種法が改正され、1995年4月から男女幼児(生後12~90か月未満)と男女中学生(経過措置)が定期接種の対象となった。また、義務接種が努力義務接種に変更となり、学校での集団接種から保護者同伴で受ける医療機関での個別接種に変わった。この変更により従来高く維持されていた中学生の接種率が激減した。これを受けて、2001年11月~2003年9月までは、1979年4月2日~1987年10月1日生まれの男女はいつ受けても定期接種として受けられることに制度変更されたが、対象者にこの情報が伝わっておらず、接種率の改善はあまり認められなかった。

 2006年4月から麻疹風疹混合(MR)ワクチンが定期接種に導入され、6月から1歳児と小学校入学前1年間(6歳になる年度)の2回接種になった。また、2007年の10~20代を中心とする麻疹の全国流行を受けて、2008年度からの5年間に限っては、中学1年生と高校3年生相当年齢の者に対して2回目のワクチンをMRワクチンで受けることになった。学校関係者の多大な努力により年々接種率は上昇したが、高校3年生相当年齢の接種率は全国平均で80%程度であった。

先天性風疹症候群の発生動向(表2)

 先天性風疹症候群は1999年4月以降、感染症法に基づく5類感染症全数把握疾患で、すべての医師に届出が義務づけられている。2004年の流行の影響で10人の赤ちゃんが先天性風疹症候群と診断された。その後国内では流行が抑制されていたために、妊娠中に海外で風疹ウイルスに感染して報告される児が目立っていたが、2012年以降は国内での感染である。この結果、2012年10月以降2013年9月4日までに18人の赤ちゃんが先天性風疹症候群と診断された。母親の妊娠中の風疹罹患は妊娠5~17週で、中央値は11.5週であった3)。1993年にギリシャで発生した風疹の流行とそれに続く先天性風疹症候群の発生をみると4)、風疹の流行のピークから約6か月遅れて先天性風疹症候群のピークが見られることから、2013年5月のピークから約6か月経った11月頃に報告数が増加することが予想されていたが、2012年10月~2014年1月29日までの先天性風疹症候群の報告数は41人となった(表2)。

表2 先天性風しん症候群(CRS)の報告
1999年4月~2014年1月 n = 60
(感染症発生動向調査より)
先天性風しん症候群(CRS)の報告
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おわりに

 子ども達の多くは2回の予防接種の効果により発症が予防されているが、ワクチンを受けていない成人男性を中心に流行が発生している。男性の20~40代、女性の20代に発症が最も多く、妊娠・出産・育児世代である。この年齢の教職員は自らの発症を予防することに加えて、妊娠中の同僚・保護者に風疹ウイルスを感染させないためにも、風疹含有ワクチン(2014年は海外からの輸入麻疹が急増していることから、麻疹予防のためにもMRワクチンが奨められる)麻疹予防のためにもMRワクチンが奨められる)を受けておいて欲しい。

参考文献

  1. Ueda K, et al.(1979): Congenital rubella syndrome: correlation of gestational age at time of maternal rubella with type of defect. J Pediatr 94: 763-765.
  2. Maldonado YA. (2012) : Rubella virus. In: Principles and Practice of Pediatric Infectious Diseases (4th ed.): Long SS, Pickering LK, Prober CG (Eds). Elsevier, Churchill Livingstone.
  3. 国立感染症研究所:風疹.2014年2月現在URL: http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/ha/rubella.html
  4. Panagiotopoulos T, et al.(1999): Increase in congenital rubella occurrence after immunisation in Greece: retrospective survey and systematic review. BMJ 319:1462-7.
掲載日時:2014/01/28