はしか=麻疹(ましん)は怖い病気です
~事前準備が最も重要、1人の時点ですぐ対応が合い言葉~
麻疹(ましん)のことを、日本では通称「はしか」と呼びますが、正式な病名は“麻疹(ましん)”です。ワクチンが開発されていなかった時代、麻疹を発症して多くの子どもたちが命を失いました(図1)。昔、日本では「はしかは命さだめ」と言われていましたが、現在でも、麻疹を発症した1,000人に1人程度(約0.1%)が亡くなる重症の感染症であることに変わりはありません。今の高校生・大学生が生まれた頃は、日本でも1年間に100人近くの人が麻疹で命をおとした年もありました(図2)。途上国では致死率は1~5%と更に高く、医療機関へのアクセスが悪かったり、栄養状態が不良であったりすると、25%の致死率に達するとも言われています1)、2)。
国内では、今もなお、数年毎に麻疹の全国流行が発生し、多くの子どもたちが麻疹を発症して重症化しています。特に、2001年の全国流行では全国で約27万8千人の患者が発生していたと推計される大きな流行となりました。また、沖縄県では2000年前後の流行で9名の子どもたちが麻疹のために亡くなるという悲しい出来事がありました。日本のように医療が進んだ先進国であっても、麻疹の特効薬はありません。麻疹を発症すると、熱が高いときは解熱剤を使用する、せきがひどいときはせきを鎮める薬を使用するといった、症状を和らげる治療、すなわち対症療法のみとなります。2000年の大阪での麻疹流行時の調査では、入院率は平均40%、特に思春期以降の年齢では入院率が高くなり、成人では80%程度が入院して治療を受けていました3)。
麻疹が怖い病気と言われる二つめの理由として、合併症の多さがあります。すなわち、麻疹にかかっているときに、その他の病気を併発するということです。合併症の頻度は、約30%と言われていますが、5歳未満と20歳以上ではその頻度が高いとされています1)、2)。最も多いのが肺炎で、特に小児では麻疹の死亡原因の多くを占めます。その他、中耳炎や腸炎、クループも多く、低年齢の子どもでは、熱とともにひきつけを起こす(熱性けいれん)ことが多くあります。また、成人では、肝臓の機能が悪くなって入院する場合もあります。最も重症の合併症の一つに脳炎がありますが、脳炎を併発すると、約15%の患者さんが死亡します。命をとりとめても、約20~40%の人に精神運動発達の遅れや麻痺など、重い後遺症が残ることがあります。脳炎は年長の人に合併することが多いとされ、年長者の死亡原因は脳炎が多いとされています。肺炎や脳炎を併発し重症になると、集中治療室(ICU)での治療が必要になり、人工呼吸器を使って、呼吸を助けてもらう必要が出てくる場合もあります。2007年は10代~20代を中心とする流行でしたので、1年間で9人の麻疹脳炎の患者さんが報告されました。近年では、2004年に20代の健康なお母さんが麻疹脳炎で亡くなられています(表1)。
麻疹が怖い病気である3つめの理由として、発症すると1か月程度は免疫機能が低下することです。体の中の白血球の数を調べると、通常の半分くらいに低下していることがよくあります。それ以外にも、陽性であったツベルクリン反応が陰性化したり、結核が再燃したりする人もいます。また、常在している細菌によって肺炎が起こることもあり、麻疹にかかっているときに水ぼうそう(水痘)にかかると、水痘はとても重症になります。
麻疹が怖い病気である4つめの理由は、亜急性硬化性全脳炎(あきゅうせいこうかせいぜんのうえん)という病気を発症することがあるということです。麻疹患者10万人に約1人の割合で発症すると言われています。この脳炎は、麻疹が治ってから数年から10年ほど経ってから発症します。学校の成績がおちる、性格が変化する、動作が鈍くなる、ひきつけがおきるといった症状で始まります。その後、動くことができなくなり、意識がなくなって死亡する極めて重症の脳炎です。
「はしかのようなもの」、「たかが、はしか」、「はしかなんて子どもの病気でしょ」、「はしかで何を騒いでいるの」、という言葉は、もう禁句です。はしか=麻疹は決して子どもの軽い病気ではないのです。日本のように医療が発達した国においても、命に関わることがある、重症感染症の一つなのです。予防接種で予防できるにもかかわらず、麻疹にかかって命をおとしたり、重度の後遺症を残したりすることがないように、発症する前に予防をすることが最も重要です。
つづく
国立感染症研究所感染症情報センター 多屋馨子
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http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/index.html
2012年の麻疹排除(Elimination)を目標に、2007年8月厚生労働省において、わが国における「麻疹排除計画」が策定されました。これを機に、麻疹排除に向けた本格的な取り組みが国民ひとりひとりに求められています。
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