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小児歯科の今

(会報「学校保健」272号 H20年6月発行号より)

 平成19年度の学校保健統計調査報告をみると、児童生徒の口の中、特にむし歯の状況は著しく改善されてきていることがわかります(図1)。しかも、健康診断の場では、しっかりものを噛めず、早急に治療が必要な進行したむし歯は少なくなり、むし歯があっても事後措置をしっかりすればよい初期のものであることが多いと実感します。この傾向は、小児歯科がかかわる乳幼児から思春期の子どもたち全般にみられます。

図1  

 一方、新たな課題もあります。歯肉の健康、歯並びや噛み合わせへの関心の高まり、顎の関節への対応、外傷の予防などです。口のもつ機能にも、目が向けられています。口は食物を摂りこみ、しっかり咀嚼することによって、身体の栄養だけでなく、味わいや寛ぎなどの心の栄養を取りこむ役割も担っています。社会全体で取り組んでいる「食育」では、健康な口と歯を維持して、五感で味わえる食べ方ができるように支援したいと考えています。

 「むし歯の洪水」と言われた20年以上前には、むし歯を早く見つけて、早く治療に結びつけ、歯を失わないようにすることが小児歯科の最大の仕事でした。「放っておくと痛くなっちゃうぞ!」とか「痛くて食べられなくなってもいいの!」などと、なんとか治療を受けてもらおうとした時期でした。口の中が改善されてくると、早期発見・早期治療から予防にも力を入れられるようになりました。「1日3回歯みがきを!」「甘いものに気をつけよう!」など、指導を中心とした取り組みでした。

 最近は、口の中で何が課題なのかを、子ども自身に気づいてもらうように働きかけ、どうすれば健康を獲得できるのか、一緒に考えようとしています。健康を維持する力を身につけてもらおうという健康教育です。口や歯は自分の眼で確かめることができる特徴をもつ身体の一部です。たとえば、むし歯を治すと、口の中がきれいになったことがよくわかります。おいしく食べられるようになったと実感することもできます。毎日の歯みがきを頑張ると、歯肉が引き締まってくることも感じとれます。こうした体験は、子どもたちに大きな達成感をもたらすはずです。

 生涯にわたって口と歯の健康を保ち、美味しく、楽しく食べていくために、この時期の基礎づくりはとても大切です。小児歯科では治療だけでなく、子どもたちの歯や口の健やかな育ちにきめ細かく対応しています。子どもたちの口に向かい合うと、身体の健康や成長はもちろん、こころの健康、さらには家庭や地域での生活も見えてきます。こうした経験も、地域の子育て支援にも活せればと考えています。

(社)中野区歯科医師会 専務理事 田中 英一

掲載日時:2011/02/21