第7回「学校感染症による出席停止」
3.学校感染症発生時の対応について
 
インタビュー:
(財)日本学校保健会専務理事 雪下國雄
○学校感染症について
○治癒証明書について
○出席停止と臨時休業
○臨時休業の決め方

3.学校感染症発生時の対応について

――まず、学校感染症についてお話をお願いします。

感染症の法律に関する歴史を遡ると、明治31年(1898年)に「学校伝染病予防及び消毒法」が施行されました。そのちょうど百年後の平成10年(1998年)、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症予防法)」の施行に伴い、それまであった「伝染病予防法」「性病予防法」「後天性免疫不全症候群(エイズ)の予防に関する法律」が廃止され、伝染病という表記が感染症に、結核予防法も感染症予防法へと統合されました。

学校感染症は、学校における保健管理の特異性を考慮し、特に留意する必要のある事項については学校保健安全法(旧学校保健法)ならびに同施行規則で必要な事項を定めるとして規定されました。

学校感染症には第一種から第三種まであり、第一種は感染症予防法第6条に規定する一類並びに二類感染症です。(表1

第二種は飛沫感染するもので、児童生徒等の罹患が多く、学校における流行を広げる可能性が高いものです。(表2

ちなみに感染症予防法で規定されている一類から四類までの感染症は発生した場合、医療機関は直ちに国へ届け出なければなりません。

第三種は学校教育活動を通じ、学校において流行を広げる可能性のある感染症です(表3)。「その他の感染症」については、学校で流行が起こった場合にその流行を防ぐため、必要であれば校長が学校医の意見を聞き、第三種の感染症として措置できる疾患で、次のような疾患が想定されています。

 

1)条件によっては出席停止の措置が必要と考えられる感染症

溶連菌感染症、ウイルス性肝炎、手足口病、伝染性紅斑、ヘルパンギーナ、マイコプラズマ感染症、感染性胃腸炎(流行性嘔吐下痢症)

2)通常出席停止の措置は必要ないと考えられる感染症

アタマジラミ、水いぼ(伝染性軟属腫)、伝染性膿痂疹(とびひ)

 

「その他の感染症」で出席停止の指示をするかどうかは、感染症の種類や地域・学校における発生、流行の状態等を考慮して判断する必要があります。これは隣接する学校・地域によって取り扱いが異なると混乱を起こす可能性があるので注意を要します。都道府県、市区町村単位などで教育委員会が事前に統一的な基準を定めておくことが必要です。

自治体(学校)によっては、学校感染症に罹患し、治癒して再登校する場合、「治癒証明書」の提出を義務付けているところがあります。

 

――その治癒証明書についてもう少し詳しく教えてください。

これは担当の医師が各疾患の登校基準(出席停止の基準)を考慮して記載するもので、通常その期間は欠席扱いになりません。

学校感染症は法律で規定されているので、本来、出席停止の処置がとられた場合には個人の判断で学校に出てくるのではなく、学校医等の医師の許可を得て学校へ登校すべきであり、治癒証明書はそのためのものです。

ただ、治癒証明書は医師が責任を持つものなので、文書料等が発生します。これには公費負担の市町村もありますが、多くの場合は保護者負担で料金もそれぞれによって違い、収入の格差や種々問題があるのは否めません。

そこで、本会では学校欠席者情報収集システムの活用を検討しています。このシステムは学校医等とも情報共有しており、出席停止の情報を入力・管理できることから、出席停止を受けた自校の児童生徒をナンバリング等で表示し、基準の期間を管理することで、保護者が文書代を支払うことなく、学校が文書を用意しなくても治癒証明書に代えられるようシステム上で補おうということです。

治癒証明書の例(リンク)

 

――出席停止と臨時休業についてお願いします。

出席停止と臨時休業は、学校感染症のまん延防止対策として行われるものです。

出席停止は、学校保健安全法第19条で「校長は感染症にかかっており、かかっている疑いがあり又はかかるおそれのある児童生徒等があるときは、政令で定めるところにより、出席を停止させることができる」と定めています。臨時休業については、同法第20条で、「学校の設置者は、感染症予防上必要があるときは、臨時に、学校の全部又は一部の休業を行うことができる」としています。その詳細については、文部科学省令に定められています。(法第14条)

出席停止の期間の基準は表4で一覧にまとめています。法律については以下をご参照ください。

○第一種 

第一種の感染症にかかつた者については、治癒するまで(規則第19条第1号)

○第二種

それぞれ定められた出席停止期間。ただし、病状により、学校医その他の医師において感染の恐れがないと認めたときはその限りではない。(規則第19条第2号)

○第三種及び結核

病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで(規則第19条第3号)

○その他の者についての出席停止期間

第一種若しくは第二種の感染症患者のある家に居住する者又はこれらの感染症にかかつている疑いがある者については、予防処置の施行の状況その他の事情により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで(規則第19条第4号)

第一種又は第二種の感染症が発生した地域から通学する者については、その発生状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間(規則第19条第5号)

第一種又は第二種の感染症の流行地を旅行した者については、その状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間(規則第19条第6号)

○適当な消毒方法

校長は、学校内において、感染症にかかっており、又はかかつている疑いがある児童生徒等を発見した場合において、必要と認めるときは、学校医に診断させ、法第十九条 の規定による出席停止の指示をするほか、消毒その他適当な処置をするものとする。(規則第21条)

校長は、学校内に、感染症の病毒に汚染し、又は汚染した疑いがある物件があるときは、消毒その他適当な処置をするものとする(規則第21条第2号)

学校においては、その附近において、第一種又は第二種の感染症が発生したときは、その状況により適当な清潔方法を行うものとする(規則第21条第3号)

 

――臨時休業の決め方についてはどうでしょうか。

臨時休業は、一般的には、欠席率が通常時の欠席率より急激に増加したり、罹患者が急激に多くなったときにその状況と地域におけるその感染症の流行状況等を考慮し、決定されるものですが、それにはその規模により学級(学年)閉鎖と学校閉鎖が選択されます。

学校の設置者(校長)により意見を求められた場合、学校医はその学校感染症の特性、地域性を十分に考慮し、地域の保健所や医師会の情報等も参考にして回答する必要があります。

また、学校感染症の発生に対し、そのまん延防止のための臨時休業が有効かどうか判断するには、その感染症の潜伏期の性質を特に考慮しなければいけません。(表5

臨時休業が有効な感染症は、潜伏期が1~2日と極めて短く、飛沫感染により伝播するインフルエンザや経口・接触・飛沫感染により伝播するノロウイルスなどの感染性胃腸炎の場合です。潜伏期間が長い感染症の場合は、流行が発覚した時に学級閉鎖をしてもすでに感染がまん延している可能性が高く、あまり意味がありません。

例えばインフルエンザですが、発病後5日間かつ解熱後2日間の出席停止期間、潜伏期の1~2日を考慮すると、4~5日間の臨時休業が大変有効な場合が多くみられます。学校側(保健主事、担任、養護教諭等)の児童生徒等の経過観察を十分に実施し、必要であれば延長します。