第7回「学校感染症による出席停止」

子どもたちが集団生活を営んでいる学校や幼稚園・保育所は、季節性インフルエンザに代表されるように特に飛沫感染をする感染症がひとたび発生すると、学校内のみならず、兄弟、家族を通じて地域にまで流行が広がる可能性が高く、その予防や流行のまん延を防ぐ手段として、学校保健安全法において学校感染症が規定され、出席停止や学級・学校閉鎖の処置が取れることになっています。
 その学校感染症について本年4月2日付けで文部科学省より学校保健安全法施行規則改正の通知が出されました。(この通知にある定期健康診断における結核の有無の検査方法に関しては特集第5回をご参照ください)
 そこで特集第7回では、「学校感染症による出席停止」をテーマに、今回の施行規則の改正点や留意点について文部科学省の有賀玲子専門官に、学校感染症発生時の対応について、本会の雪下國雄専務理事にお話を伺いました。

聞き手:文作成/日本学校保健会事務局

 

〔目次〕

1.出席停止期間の基準
インタビュー:文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課 有賀玲子専門官
○学校保健安全法施行規則改正の経緯
○改正点
2.出席停止の意義、留意点
インタビュー:文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課 有賀玲子専門官
3.学校感染症発生時の対応について
インタビュー:(財)日本学校保健会専務理事 雪下國雄
○学校感染症について
○治癒証明書について
○出席停止と臨時休業
○臨時休業の決め方

1.出席停止期間の基準

――この4月から学校保健安全法施行規則にある感染症の種類と出席停止期間の基準に変更がありましたが、まずはその経緯についてお聞かせください。

文部科学省では、現在、学校保健関係者や感染症の専門家の方々にお集まりいただき、「学校において予防すべき感染症の指導参考資料の作成協力者会議」を設置して、教職員や医療関係者を対象に各種感染症の解説や学校の管理体制、医療機関との連携等に関する指導参考資料を作成しています。

これまでの学校保健安全法施行規則に規定されていた学校感染症の種別やそれぞれの出席停止期間の基準のなかには、現在の臨床の実態等に照らし合わせると必ずしも適切でないものがあることから「学校保健安全法施行規則改正に関する報告書」が先だって作成され、それを受けて今回の改正となりました。

 

――今回、学校感染症に関しては、どのような改正があったのでしょうか。

このたびの改正としては、大きく分けて2点あります。1点目は、これまでの第2種感染症に新たに髄膜炎菌性髄膜炎が規定されました。

2点目としては、インフルエンザ、百日咳、流行性耳下腺炎の出席停止期間の基準が改められたということです。

 

【髄膜炎菌性髄膜炎】
 出席停止の基準:「病状により学校医等において感染の恐れがないと認めるまで」

 

髄膜炎菌性髄膜炎は、我が国での発生報告はわずかでこれまで特段の規定はされていませんでしたが、発症した場合は重大性が高く、平成23年5月に宮崎県の高等学校の寮で発生した時は、死亡1名、入院6名、菌検出者8名という事態となりました。それらをふまえ、明確に位置づけられることになりました。

髄膜炎菌は飛沫感染し、学校において流行を広げる可能性が高い疾病ということから第2種に規定されることとなりました。

出席停止期間については、疾患が重篤で発生時の影響が大きく、原因菌の排泄期間だけでなく症状等から総合的に判断すべきということで、「病状により学校医等において感染の恐れがないと認めるまで」となりました。

なお、髄膜炎はほかのさまざまな原因でも起こるのですが、髄膜炎菌によらない髄膜炎については学校感染症に含まず、必要に応じて指導参考資料の中で解説していきます。

 

【インフルエンザ】(鳥インフルエンザH5N1および新型インフルエンザは除く)
 出席停止期間の基準:「解熱した後二日を経過するまで」→「発症した後五日を経過し、かつ、解熱した後二日を経過するまで」

 

昨今、抗インフルエンザ薬の発症後早い段階での投与によって、インフルエンザは、感染力の強いウイルスを体外へ排出しているにもかかわらず解熱してしまう状況がしばしばみられるようになりました。しかし、いくら体調がよくなったからといってその状態で外出したり、従来の出席停止期間が「解熱した後二日を経過するまで」だからといって学校へ登校してしまうと、ほかの人たちに病気をうつしてしまって、流行をさらに広げてしまう可能性があります。

臨床研究の結果で、抗インフルエンザ薬を投与された場合と投与されなかった場合のウイルス残存率は、薬剤の種類やウイルスの型、患者の年齢等の諸条件によって違いはあるものの、発症(発熱)した後五日を経過するとウイルスの排出はある程度治まるといったものがあります。

これらの報告をふまえ、今回、インフルエンザの出席停止期間は、「発症した後五日を経過し、かつ、解熱した後二日を経過するまで(幼児にあっては、三日)」と改正されました。

 

【百日咳】
 出席停止期間の基準:「特有の咳が消失するまで」→「特有の咳が消失するまで、または、五日間の適正な抗菌薬療法が終了するまで」

 

近年、百日咳は、散発的な流行がみられる生徒・学生といった比較的年齢が高い層では、「特有の咳」が顕著でないことが多いことから、今回の改正になりました。

百日咳に関しては、「抗菌薬療法を受けないものについては発症後21日を経過するまで感染性を有する場合がある」「五日間の適正な抗菌薬療法が終了すれば感染の恐れがない」という研究報告があり、それをふまえ、「特有の咳が消失するまで、または、五日間の適正な抗菌薬療法が終了するまで」と改められました。

 

【流行性耳下腺炎】
 出席停止間の基準:「耳下腺の腫脹が消失するまで」→「耳下腺、顎下腺又は舌下腺の腫脹が始まった後五日を経過し、かつ、全身状態が良好となるまで」

 

流行性耳下腺炎は、臨床的に耳下腺以外の唾液腺が腫れる症状がみられることから、耳下腺以外の唾液腺についても規定する必要が出てきました。ただ、「唾液腺」とすると小唾液腺を含んでしまうので、対象を大唾液腺である「耳下腺、顎下腺または舌下腺」という明記になっています。また、この病気の原因であるムンプスウイルスは発症する前から感染力があり、発症後は五日程度で感染力が十分弱まるのですが、臨床的に腫脹が長期間にわたって残る場合があるので、発症後の日数で規定することになりました。

 

 

2.出席停止の意義・留意点

――学校保健安全法で学校感染症が規定されている意義や留意点について教えてください。

これまでお話してきましたように、学校保健安全法の施行規則で決められている学校感染症の出席停止期間の基準ですが、特に、第二種の感染症については、それぞれの疾病に応じた出席停止の期間の基準が設定されていますが、これはあくまで基準であって、あらゆる全ての場合においてこの期間を出席停止とするべきということではありません。「病状により学校医その他の医師において感染の恐れがないと認めたときは、この限りではない」とされているように、地域の流行状況や感染症の特性などを考慮の上、一人でも感染が広がらないよう学校医とよく相談されて判断していただきたいと思います。

出席停止は、感染症予防と流行防止を目的として行う処置です。欠席日数の調整のためにといったような、学校において感染症を予防するという目的以外に適用するものではありません。また、その逆で、全員の皆勤をクラス目標に掲げている等の理由で、体調がすぐれず、本来であれば休養をとるべき児童生徒が出席を強要されるといったことがないよう適切な指導をお願いします。