第3回テーマ「学校での応急処置・対応」

  • 順天堂大学医学部 総合診療科 特任教授 林田 康男
●腹痛の原因  腹痛の原因には腹部の疾病だけでなく、呼吸器、泌尿器など、心因的な原因も含め、多数の原因疾患が考えられる。さらに、緊急に外科的な処置を要するものも含まれ、腹痛の診療では正確な診断が必要とされる。特に乳幼児、小学校の低学年では自分が現在病んでいる部位の特定もできず、症状の訴え方も曖昧となるので、その診断には十分な注意が必要となる。

●腹痛の診断  第一が視診、触診であるが、問診も重要となる。ただ前述したように乳幼児、小学校の低学年では、ほとんどの例で正確に問診がとれるとは思われないので、視診、触診が主体となる。しかし、ただ泣いている児童では触診も難しいことがある。周りの学童からの情報収集も、外傷の有無などの参考にはなる。
視診では、本当の腹痛時は必ず腹部を抱え込むように丸くなる姿勢をとる。また同時に痛みの部位に手を当てているのが一般的である。
顔貌の診療は苦悶状、顔面蒼白、冷汗、さらに意識レベルなど、重症度の判定にもつながるので注意深く観察する必要がある。
患児の体位の変換、移動などでも、簡単にできれば軽症、そうでなければ重症とある程度の目安となる。さらに腹部以外、口腔、喉頭、胸部など、感染症の有無についての点検も必要である。 触診では、「板状硬」が最も重要な所見となる。腹部を触れても全く腹部(腹壁)はへこまず、板のように硬い状態で、おそらく一般の方が触れてもこれは普通でないと実感するはずである。この板状硬の病態は消化管の穿孔、腹腔内出血が考えられる。
上腹部は胃・十二指腸、右下腹部は虫垂炎、下痢は腹部左側、特に左下腹部の痛みが主となる。
第二には腹痛は腹部の疾病のみならず、呼吸器、泌尿器さらに心因的な状況でも発生することを常に念頭に入れておく必要がある。とりわけ乳幼児、学童期にはしばしばみられる。夜間のお腹の冷えによる一時的下痢、軟便時でも腹痛として訴えられる。
また、登校拒否の手段として頭痛、腹痛を訴えることもある。同じ様な症状が繰り返されていないかどうかのチェックも必要である。
第三には画像による診断法があげられるが、学校内では無理である。一般病院ではレントゲン、超音波、CTなどが有効な診断手段となる。

●腹痛の応急処置  腹痛時の一般的応急処置としてバイタルサイン(意識、血圧、呼吸、脈拍)のチェックは当然であるが、以下の処置が必要である。
1) 衣服をゆるめ、静かに寝かせ、腹痛の状態を観察
2) 嘔吐物のあるときは誤嚥をさせないよう注意すると同時に吐物は残しておき、医師に見せるようにする。
3)飲水は与えない。
4)痛み止めはなるべく飲ませないようにする。
などである。
ただ、最も注意を要する事柄は急性腹症である。急性腹症としての症状は主に以下の通りである。
1)冷汗、脂汗
2)七転八倒のごとき激痛
3)意識の低下
4)腹部の板状硬
5)反復する嘔吐、時に吐血、下血
などであり、急性腹症であれば、躊躇することなく、ただちに設備の整った医療施設へ(救急車にて)搬送すべきである。

●学校保健の中で特に注意すること  腹痛時、絶対にしてはならないことは
イ)飲水、食物を与えること
ロ)痛み止め、浣腸、下剤の投与、施行
ハ) 腹部のマッサージ、腹部を温めたり、冷やしたりを医師の指示なしで行うこと
ニ)患児の安静を妨げること
ホ)専門医(校医など)への未連絡
などであるが、校医など医師に的確に情報を伝えることも重要である。
イ) 痛みの程度、部位、間隔、始まった時刻、習慣性か否か
ロ)嘔吐、吐血、下痢、下血など有無
ハ)食事との関係
ニ)バイタルサイン、発熱の有無
などであるが、また家庭との連携も重要な因子となりうるので、常に連絡網の点検等確立しておく必要がある。
最後に急性腹痛の主な原因、慢性反復性腹痛の主な原因を表にまとめたものを提示するので参考にされたい。
表1:急性腹痛の主な原因(下線:外科的急性腹症を示す)
表2:慢性反復性腹痛の主な原因

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