特集第7回

「チーム学校」
~スクールソーシャルワーカーの活動に光をあてて~

学校保健の中ではスクールソーシャルワーカー(以下、SSW)はまだあまりなじみのない方もいらっしゃるように見受けられます。SSWとはいったい何なのか、どのように関わっていったらよいかということをお話しいただきました。

東京学芸大学 准教授
馬場幸子 先生

馬場先生)

まず、バックグランドからお話いたします。文部科学省では2008年にSSW活用事業を始めました。その背景にあったのは、近年いじめや不登校等の問題がすごく複雑化していて、学校の中だけでは対応しきれないということ、そして、家庭や学校外の専門機関と連携をしていく、協働していくことが強く求められてきていたということです。連携・協働のシステム作りをするための専門家としてSSWが配置されることとなりました。SSWが配置されることによって、学校がより開かれた生徒指導体制ができるのではないかというのが目的、それを期待してSSWが導入されました。

SSWは何をするのかについてお話しします。まず、SSWの問題の捉え方について説明します。SSWは何か問題が起こったときに、それを個人の内面の問題とか、個人が抱えている特性よって生じていると捉えるのではなく、人と環境、周りの状況との交互作用によって問題が生じますよ、だからその問題を改善するためには人と環境との関係性を改善していく必要がありますよとかんがえます。

ここでいう個人、個人の特性とは発達段階や体質、身体的な健康状態とか、行動特性、価値観などのことを言い、環境は取り巻く人、集団、組織などを指します。一番身近な環境は家族です。家族、友達、学校の先生、病院、それら全部、人を取り巻く環境という捉え方をして、問題を解決するためには人と環境との関係性を改善する必要があると考えます。人と環境との関係性を改善することによって、人が元々持っている問題解決力が高まって問題が解決されていきますよ。だからSSWは例えば子供が抱えている問題を代わりに解決してあげるわけじゃなくて、周りの環境を整える。その子と環境との関係性を良くすることによって、本人が問題解決をしていけるあるいは家族が問題解決をしていける状況を作っていく。それがSSWの役割になります。

例えば、学校でいじめや不登校とかいろんな問題が起こっています。SSWは、いじめをする子が悪い子、いじめられる子が弱い子とか、そういう捉え方はしません。また、その子が例えば学校ですごく暴言を吐く、暴力をふるうというような時に、「もしかしてこの子は発達障害ではないか」という話はよく出てくると思います。もしかすると確かに発達障害かもしれません。それは個人の持っている特性としてあるかもしれないのだけども、じゃあ発達障害だったら必ず暴力、暴言吐くのかというとそういうわけでもない。SSWは、その子が暴言を吐く、暴力をふるう背景に何があるのかなというのを見ます。もしかすると家庭であまりいい対応をしてもらえていない、虐待をされているかもしれない。じゃあ虐待をするのは「悪い親」だから虐待をするのか。というとそうとも言えなくて、ここでもまた、個人と環境との関係性を見る、背景をみると、その親は、すごくストレスの高い生活を強いられているのかもしれない。例えばお父さんが失業してしまって経済的に厳しい。お父さんも仕事を探そうとしているのだけどもなかなか見つからなくてイライラが溜まってきて夫婦喧嘩が絶えなくて、というようなことかもしれない。お父さんが失業したのは何故といったら、別に怠け者で仕事をしなかったわけではなく、会社の経営がよろしくなくてリストラされたのかもしれない。といって地域での経済の状態というのもあるだろうし、失業した時の失業保険、社会保障とかそういう問題も関係しているだろうというふうに、こういうふうに重層的に見ていくというのがソーシャルワークの見方になります。

こういうふうに重層的なものの見方をしていくと、やはり子供個人だけに働き掛けているのでは解決できません。何でこの子が今こういう状況にあるのかということを、家族や友達、クラスの状況、学校の状況、先生たちの関係性などを含めて考えます。いろんなことが影響して子供の行動に現れてきているので包括的に見ていきましょうというのがSSWの見方です。

実際に何をするのか。関係性を改善すると先ほど言いました。関係性を改善しながら生活上の困難を抱えている本人や家族が対処していける能力を高める。基本的に、よく言われているのは社会資源と「繋ぐ」。社会資源というのは使えるサービスとか、役に立つ人とかのことですが、社会資源と繋ぐ。例えばすごく経済的に厳しい生活をしているにも関わらず何も公的なサービスを利用していないというのであれば「生活保護がありますよ」とか。

生活保護を利用する、受給するほどではないけどでもやはり厳しいといったときに、「就学援助というサービスがありますよ」とか。

あるいは「生活福祉資金」とか。母子家庭の方に支給される「児童扶養手当」とか。障害を持った子供さんを育てていると、「特別児童扶養手当」とかいろんなものがあるのですけど、分からないですよね。学校の先生方も、もしかしたら聞いたことがあるかもしれないけども、どこに行ったらもらえるよというところまで分からないです。

就学援助というのは、教育委員会を通して出されているにも関わらず、学校の先生方のなかにはあまり知らない方もいらっしゃいます。となると、どこにどんなサービスがあって、どうやって使ったらいいのか、ということ一つでもソーシャルワーカー、社会福祉のことをちゃんと知識知っている人が間に入ると、使いやすくなるわけです。

また、ただ単に「こういうのがありますよ」と言ったら、「じゃあ、行ってきます」と行ってくれる保護者の方ばっかりではないです。そう言われてもどうしていいのか分からないという方もいます。そうすると、一緒に手続きに行くこともあります。あるいは、ただ経済的に厳しいというだけではなくて、生活力そのものがとても低い方、子供を養育する力が弱い方もいらっしゃいます。

例えば虐待、ネグレクトというような形で通報されたりする方もいますが、そういう方を、東京であれば子ども家庭支援センター、他の地域だと家庭児童相談室というところに繋ぐことがあります。ご本人に「ここに行ったら子育てについての相談を受けてもらえますよ」と伝えたり、あるいは「この家庭ちょっと大変そうだから見てください」と言って、子ども家庭支援センター、家庭児童相談室に言って、ご家庭を見てもらうことはできるのですが、ただ繋いだだけでは、学校にはその後どうなるのかが分からない。学校とそういう福祉機関との間で時々聞かれるのが、「繋いだのに、何もやってくれない」「全然連絡がこない、どうなっているのだろう」などといった不満の声です。

それぞれに、「学校ではこういうふうにサポートしています」「子ども家庭支援センターではこんなふうな動きをしています」、「お互いやりとりをしながら協力をしてやっていきましょうね」という体制が必要なのですが、そこのやりとりの仲介をするのもSSWの役割になります。学校の先生がたびたび子ども家庭支援センターに電話して、訪問してというのは、なかなか難しいです。SSWが学校から支援の依頼を受けたら、まずは学校に行って、支援対象の子どもの状況についてお話を聞きます。大抵は校長先生や管理職の先生を通じて教育委員会に連絡が入って、SSWが相談依頼を受け取ります。その後、SSWが学校に訪問し、管理職の先生や担任の先生からこれこういう事情でこの子のことで困っていますというような話を聞く。でもその話を聞いただけだとよく分からない。それですぐに動きだすわけにはいかないので、例えば配置型という勤務日にはいつも学校に居ているSSWさんであれば、教室や学校の中を見て回って子どもの様子を見たりすることもできます。保護者の方と会うとか、いろんなことをしながら情報を集めて関係の人たちと会議をして、目標を立てて、こういうふうにやっていきましょうというふうに進んでいきます。社会福祉関係の資源、機関やサービスを提供してくれるところとの関係をとりもったり調整したり、あるいは代弁をします。代弁するというのは、例えば子供が何か言いたいと思うことがあってもなかなか大人に向かってそれをきちんと表現することがしにくい。言わんとすることが先生に伝わらないとか、親に伝わらないというような時に、間に入って、「こういうふうなことを思っているのだと思います」などと伝えることですが、そういったこともSSWの役割です。

子供に対してだけではなくて保護者の方や、場合によっては先生の代弁をするということもあります。よくモンスターペアレントと言われる保護者の方がいます。何かあるとたびたび学校に電話をかけたり、ワーと怒鳴り込んできたりされると、先生方も「勘弁してくれ」という感じになります。そういう状態になると、互いにコミュニケーションが取れないのです。「やっかいな親」。でもその保護者も学校に来ているということは何かしら言いたいことがあるし、子供の教育に関心がないわけではない。だけどその伝え方が上手ではないのでトラブルになってしまうのです。SSWさんが「このお父さんはこういうふうなことを考えているのだと思いますよ」とか、あるいは学校の先生と保護者が直接話をするとすぐトラブルになってしまうとすると「学校の先生もすごく○○ちゃんのことを考えてくれているのだと思いますよ。でもそれがなかなかうまく伝わらないですよね」という間のとりもちもすることになります。

 

養護教諭の先生から、子供の貧困を感じているけれど、どういうふうにSSWに繋いでいったらいいのか難しいというふうにご質問をいただきました。

先生)

気が付かれるきっかけは、虫歯が治療されていないとか、視力矯正がなされていないなどがあると思います。視力の検査をやったときに0.1とかであれば、当然その場合は保護者に、治療をしてください、眼鏡を作ってくださいと連絡がいくはずですが、それでも眼鏡も作ってもらえない。

それ以外では、汚い服を着ている。朝貧血、何か元気が出ない子もいます。元気が出ないというのは朝食を食べていないとかいうことも多いです。もう少し極端になると、夏休みあけに痩せているとか。学期中は給食があるのでどうにかなっているのだけども、夏休みは給食がないので育ち盛りの、体重も身長も伸びていくばかりのはずの年代の子供の体重が減ってしまっている。上履き。子供たちはどんどん足が大きくなっていくので穴があくとか、きついので後ろを踏んで歩いているとか。肥満。必ずしも裕福な子が肥満になるわけではなくて栄養の偏りです。ジャンクフードばかり食べていると肥満になってきます。小学生でも糖尿病になったりします。1型ではなくほぼ2型というか、食生活の問題で糖尿病になってしまうということもありえます。

あとはもう少し大きくなると非行系で、夜間徘徊、夜うろうろする。あれも家にいても親はおらずご飯はない、ということが考えられます。そういうふうなところで、お気づきになるのかなと思います。

当然最初は保護者の方に連絡をされると思います。「虫歯の治療をしてないみたいですけど」とか。そうすると「そのうち」とか、あるいは直接的に「うちはお金がないからそんなの無理」とか。歯医者に行けば当然お金を払わないといけません。先生としては面倒を見てもらえてない子なのだな、いい加減な親だなという捉え方をする場合が多いと思いますが、じつはお金がなくてどうにもこうにもという場合もあります。自治体によっては子供の医療費を無料にしているところもありますが、健康保険でもちゃんと払ってないと一時的であっても全額負担となります。制度を利用するための手続きをちゃんとしているかという問題があります。あるいはその自治体ではそういう制度があってもそれを知らないという場合もあります。

そこで、先生方には、SSWを呼んでいただきたいのです。SSWを呼ぶには通常は管理職の先生から教育委員会に連絡をしてもらって、「こういうふうな子がいるのでちょっとサポートしてもらいたいのだけど」、という連絡さえしていただければSSWが間に入れるので、難しいわけではないのです。ただ使ったことがないとこれぐらいのことで呼んでいいのかなとか、これってSSWがやってくれることなんだろうかとか、そういった戸惑いがあると思います。でもとりあえずSSWに聞いてみる、呼んでみるというのはされたらいいと思います。SSWに投げてみて、SSWが「これは私じゃないな」と、「これはカウンセラーだな」とか、あるいは「このことなら私ではなくて直接ここに言っていただいたらいいんじゃないか」というような場合には振るでしょうし、今言ったこういった問題であれば当然学校と家とを橋渡しするような役割を果たす人が誰か必要になってくるので、SSWがそれを担うということも十分可能です。

経済的に厳しそうだからというのを直接的に話ができる保護者の方もいらっしゃるでしょうけど、なかなかそれを出しにくい場合もあると思います。「子供さんの状態がこういうふうな状態で気になるのだけど、お母さん何かお家で気になっていることないですか」とか。お母さん自身体調が悪かったり、「何か大変なことないですか」「もし経済的に厳しかったらとか精神的、身体的に厳しかったらこういうところを使うことも可能ですけど」というふうな形で家庭の中に、保護者の方と関係性を持ちながら一方で社会資源といわれるサービスを提供してくれるところと関係を作り、一方で学校と家庭を結びというような形になっていきます。

そんなに難しく考えずに、「何か気になるな、でも私の手には負えないな、学校の他の先生に聞いてはみたけれどいい手が浮かんでこないな」となればとりあえずSSWに聞いてみようというのでいいのだろうと思います。

 

福祉関係と直接やりとりをしてもらえるというのは、担任の先生や養護教諭だけではどうしてもできないと思います。

先生)

最初のとっかかりだけでも。初めて児童相談所に電話するというと緊張しますし、どこに連絡すればよいかという感じにもなると思います。とりあえずSSWが繋いで、あとは日々のことなので、何かあれば直接連絡を取ってということもありうるかもしれないです。

 

すぐに繋げるような体制があればもう学校の先生にとっては心強いですね。

このポータルサイトは主に養護教諭の方がご覧になられていますが、養護教諭への助言はありますか。

先生)

実際に学校に行って様子をうかがって援助をする中で、養護教諭の方と役割分担をしてやっていくことはたくさんあります。

例えば不登校の例ですがネグレクト傾向で、おうちも不衛生の状態だという場合であれば、児童生徒が学校に出てきていた場合に、保護者の方にこういうふうにすればいいよと伝えることももちろんできるけれど、学校に来ている本人に直接スキルを身に着けさせてあげるような助言をすることもできます。小学校1年生ではなかなか難しいかもしれないけど、だんだんと自分で自分の身を清潔に保ったり、食事の栄養をバランスよく取ったりすることが大事だよというのを伝えていってあげることも養護教諭の先生ができることでしょう。SCや SSWもよりも常に保健室にいてくださる養護教諭の先生のほうが身近なので、相談にも行きますよね。ちょっと相談したい、ちょっと話がしたいというときに養護教諭の先生のほうが聞いてもらいやすいのだと思います。

 

いつも保健室にいる養護教諭は子供たちの心のよりどころですね。
心強いお話をお聞きいたしました。全国でますますSSWの活用が促されていければ良いと思います。本日はありがとうございました。