特集第5回

修学旅行等旅先での病気やけが

修学旅行などの宿泊行事で子どもたちを見送る保護者の方や引率する先生方が心配されることには、やはり旅先での病気やけががあるのではないでしょうか。また、旅先での急病やけがは、宿泊行事のスケジュールにも影響し、楽しみにしている子どもたちをがっかりさせてしまうかもしれません。
 そんな旅行先での病気やけがについて、毎年60校以上の学校の宿泊行事に関わっていらっしゃるJTB関東埼玉南支店の納代支店長にお話を伺いました。

インタビュー

株式会社JTB関東 法人営業埼玉南支店
支店長 納代 信也 氏

 

1.移動中の急病、けが

――旅先への移動などには列車やバス、学校によっては飛行機を使う場合もあるでしょうが、そんな時にはどんな急病に出会いますか。

列車やバスでの移動中に限らず、修学旅行などの宿泊行事では、これまで命にかかわるような急病に出会ったことは幸いにもありません。これは、学校の先生方が宿泊行事の事前指導で、子どもたちの健康チェックをしっかりされているからだと思います。

移動中の急病といいますと、飛行機ではエコノミー症候群がありますが、修学旅行に関してはほとんどありません。やはり多いのは乗り物酔いです。最近、添乗していて感じるのは、バスでの乗り物酔いが少なくなり、代わりに新幹線での乗り物酔いが増えたのではないかと思います。これはバス移動が減ったというわけではなく、以前よりバスの性能がよくなり、揺れが少なくなったからではないでしょうか。新幹線の乗り物酔いが増えている原因は、どうしても新幹線での移動は朝の時間が早く、普段より寝不足になる分、体調に影響しているのかと思います。また、新幹線は窓が開かず、狭い車内という密閉空間で、それも時間が長く、団体列車となると通常より乗降客の行き来が頻繁ではないわけですから車内には昼食のお弁当やおやつのお菓子の匂いがこもります。体調が悪かったり気分が優れないときには辛いですね。

――けがの場合はどうでしょう。

移動中ということでは、旅行に支障のあるようなけがをされる方は少なく、まれに起こるのはバスやタクシーの接触事故によるけがでしょうか。乗っているバスがほかの車と接触しかけたり接触して急ブレーキをかけた際の転倒による骨折やねんざなどのけがですね。しかし、あまり数としては多くありません。最近ではグループ活動をされているときにタクシーを貸切にして街を移動される生徒さんたちがいらっしゃるのですが、追突事故などのもらい事故でむち打ちなどのけがをされるということがありました。

2.宿泊先での急病やけが

――宿泊先ではいかがでしょうか。

宿泊先での急病といいますと、行事初日の夜の健康観察でわかることが多く、これはやはり寝不足や移動の疲れによるものだと思います。小学生・中学生共に発熱・腹痛が比較的多く、腹痛は食べすぎや冷たいものの飲みすぎが原因のことが多いですね。病気の児童生徒さんを病院へ連れて行くような場合も想定し、旅行会社では宿泊先の旅館やホテルから車で20分以内の夜間でも診療していただける病院をあらかじめ調べています。林間学校などでも同じですが、街から離れた宿泊先ではタクシーを呼ぶまでに時間がかかる場合などは宿泊先のお客様用送迎車を使わせていただけるよう事前にお願いをしています。

宿泊先でのけがですが、お風呂場で滑って転んだとか、修学旅行では宿の夕食で鍋料理がよく出されますが、その鍋をひっくり返した生徒さんがやけどを負った時はすぐに応急手当てをして近所の病院へ運びました。旅行を途中で中止したり、保護者の方に迎えに来てもらうような大けがにはなりませんでしたが、やけどの跡は残りました。そのほかは部屋でのけがですね、多いのは。障子や襖を突き破った時に桟などで切ったとか打ち身や捻挫、ベランダ伝いに隣の部屋に行こうとして2階から転落したなんていうこともありましたが、その時は大事に至らなくてほっとしました。私どもが把握できるけがはほとんど生徒さんからの申告ですから申告のない小さなすり傷や切り傷となるともっと多いかと思うのですが、縫うようなけがや骨折はすぐに病院へ連れて行って、病気もそうですが場合によっては保護者の方に迎えに来ていただくことになります。

3.インフルエンザ、ノロウイルスなどの感染症対策

――感染症でもインフルエンザやノロウイルスなどの感染性胃腸炎は特に心配になるかと思うのですが。

インフルエンザですが、意外と旅行中に発症することは少ないですね。これは修学旅行の実施時期が、春ですと5月から6月、秋は9月から10月に集中していて、インフルエンザの流行時期ではないということ、それに、いま、宿泊先の旅館などでは児童生徒さんたちが着いたらすぐそこにアルコール消毒のポンプが置いてあったり、それぞれの部屋にうがい薬なども置いてあるところがあります。インフルエンザの流行期である1月2月に修学旅行を実施する学校は全体の1割程度ありますが、その学校でインフルエンザが流行し、修学旅行自体が中止になったことはありました。これは学級閉鎖まで出ていなくても学校内に流行が心配される場合などでもです。旅行中にインフルエンザを発症すると宿泊先の空き部屋を保健室として隔離し、熱が下がってから保護者の方に迎えに来てもらいます。宿の状況によっては空き部屋がない場合があり、そんな場合は近くのビジネスホテルの一室を借りることもあります。インフルエンザの流行などの理由で修学旅行が中止になった場合は延期となりますので、やはり日頃からの体調管理や予防は重要ですね。

――ノロウイルスなどの感染性胃腸炎はいかがでしょう。ノロウイルスとなると潜伏期間が8時間から1日と短いので旅先で発症すると大変なのではないですか。

そうなんです。私の経験では秋口の高等学校の修学旅行で多いですね。原因はいくつかあって、宿泊先で前日まで泊まっていた保菌者と入れ替わりになった際に罹患して発症したとか、宿は部屋や調理場など衛生面がしっかりしたところを私共も選ぶのですが、自由行動中などの途中の食事施設まではなかなか抑えが利かず、宿に入って夜に発症することがあります。そんな場合は基本すぐに救急車対応をするのですが、症状如何ではタクシーで病院へ連れて行くこともあります。これは後日の保険のために医師の診断書が必要になるからなのですが、ノロウイルスとなると旅館やホテルにとっては営業に関わりますので、ノロウイルスの人が出たとなると宿が保健所へ連絡をして、その指導の下、発症者のいた部屋内の消毒だけで済めばいいのですが、状況によってはほかに空き部屋がなく、別の宿泊先へ移動ということにもなります。

私の聞いた話では1クラスが患ったためにそのフロアに入ることが出来なくなり、急遽近くのいくつかのホテルや旅館に分宿したということもあったようです。ノロウイルスは一旦発症したとなると20~30名にも及ぶことがありますので大変です。

――海外の修学旅行ではどうでしょうか。

海外となると、ノロウイルスというよりほかの食中毒が多くなります。特に東南アジアの国々での自由行動などで屋台で食事をされて食あたり、ミネラルウォーターでも屋台などではあやしいものを売っている場合がありますので注意が必要です。

――そういう場合はどういう対策をされていますか。

海外にしても国内にしてもノロウイルスを含め食中毒の対策としては、予防が一番です。日頃からの手洗いの奨励のほか、宿泊行事の事前指導のなかで食事指導、生活指導が重要かと思います。

4.宿泊先等での食物アレルギー対応

――食物アレルギーのある子どもへの対応はどうされているのでしょうか。

修学旅行での児童生徒さんへの対応でこの数年に大きく変わったのは食物アレルギーです。5、6年以上前は、新幹線の車内で食べるお弁当にしても、食物アレルギーのある児童生徒さんにはご自宅からお弁当を持参していただいたりご自分でその食事が食べられるかどうか判断していただいていました。

現在では、宿泊先の食事に関しては、宿泊行事の前に「食物アレルギー事前調査票」という書類を学校から保護者の方へ配っていただいています。この書類には、①「食物アレルギー」の治療で通院しているかどうか ②医師により除去が必要とされている食材について ③食物アレルギーの症状が出た場合の治療薬所持の有無 等をご記入いただき、回収された書類は私共から宿泊先へ渡されます。それを基に、例えば生卵が除去必要と記されていた場合、宿泊先から「火が通っていれば大丈夫なのか」とか「すき焼きの生卵は除去しますか」とか質問が戻ってきたり、メニュー変更が可能の場合にも再び私共から学校へ、学校から保護者の方へ情報を戻して確認をお願いします。さらに昼食ですが、宿泊先はもちろん、軽食や弁当を提供していただく施設にも事前に成分表を私共が取り寄せ、学校を通じて保護者の方々に確認していただくようにしています。新幹線の車内で提供されるお弁当もアレルゲンの内容にもよりますが、今では特別弁当をご用意させていただいています。

――そういう対応をしてくれる宿泊先や食事施設は多くなっているのでしょうか。

弊社では宿泊先にしてもその他の食事施設にしても、現在、食物アレルギーのある児童生徒さんに対応していただけるところを選んでいて、修学旅行では100%対応いただいています。特に京都府では平成26年3月に宿泊施設向けの「食物アレルギー事前調査票」や宿泊施設における対応手順を記載した「旅館・ホテルの対応手順書」が作成され、27年2月には、団体向けに昼食等を提供する食事施設を含めた内容に改訂され、食物アレルギーのある児童生徒さんでも安心して修学旅行に出かけられるような体制がとられています。

ただ、自己判断ができる高校生はともかく、小・中学生は注意が必要ですね。特に最近、バイキング形式の食事が取り入れられるようになりましたので、その場合は大皿ごとに成分表を貼るなど対応をいただいています。幸いなことにエピペン®を使うような緊急事態はまだ経験がありませんが、食事時間になるたびに、万一に備えて気を遣っています。

5.その他の疾患・障害児への対応

――修学旅行などの宿泊行事には食物アレルギーのほかにもいろいろな疾患や障害のある子どもたちも行かれると思うのですが。

そうですね。食物アレルギー以外のご病気や障害は私共では調査いたしませんが、学校生活で管理が必要な心臓病や糖尿病などのご病気のある児童生徒さんは当然学校で把握されていらっしゃいますし、疾患や障害の種類や重さにもよりますが、私の感じでは疾患や障害があって保護者の方が付き添って修学旅行に行かれる児童生徒さんは40校に1人か2人でしょうか。保護者の方同伴でなくても薬などはご自分たちで管理されていますし、そういう児童生徒さんで修学旅行中に緊急事態になるということはこれまであまり経験がないのですが、一度、てんかんのご持病がある生徒さんを病院に運んだという経験はありました。三日間の行程の最終日で、それまでは順調にこられていたのですが、最終日は体調がすぐれないということでその生徒さんと養護教諭の先生が新幹線の駅に近い宿で待機中に発作を起こされて病院へ、他の生徒さんたちは足止めするわけにはいきませんのでその生徒さんと対応をされる先生以外は予定通りの新幹線でお戻りいただき、旅先の病院に入院中に保護者の方に迎えに来ていただきました。

――発達障害などの障害のある子どもたちへはどういう対応をされていますか。

学校には特別支援学級のある学校もあって、その児童生徒さんたちも一緒に参加されます。行程によっては特別支援学級の児童生徒さん独自のコースを設定するなどの対応を行っています。各学校の契約形態にもよりますが、市町村単位で一括契約している学校では特別支援学級に1名添乗員を付けて対応する契約をしている場合もございます。