特集第5回

ジガ熱、デング熱などの蚊媒体の感染症について

国立感染症研究所感染症疫学センター

主任研究官 島田智恵 

蚊媒介感染症

病原体(ウイルスや寄生虫)を保有する蚊がヒトを刺咬することで、病原体がヒトの血中に入る(感染の成立)。感染が成立後、一部は感染症として発症する。

病原体を運ぶ蚊1)

感染症の原因病原体を保有できる蚊を、感染症媒介蚊(以下、媒介蚊)という。日本国内に生息する主な媒介蚊は、アカイエカ種群蚊(媒介する病原体、以下同じ:ウエストナイルウイルス)、コガタアカイエカ(日本脳炎ウイルス)、ハマダラカ属蚊(マラリア)、ヒトスジシマカ(ジカウイルス、チクングニアウイルス、デングウイルス)、である。このうち、日本脳炎ウイルスは、国内にも活動している地域がある2)。一方、デングウイルスは、2014年に約70年ぶりに国内でも検出されたが、2015年以降は、ヒトの国内感染例や蚊からのウイルス検出の報告はない。ウエストナイルウイルス、ジカウイルス、チクングニアウイルス、マラリアは国内でまん延しておらず、海外で感染した、「輸入例」のみが報告されている()。日本脳炎、ジカウイルス感染症・デング熱については後述する。

表 感染症法に基づく感染症発生動向調査へ報告された、主な蚊媒介感染症報告数(2013年~2016年第21週)
  2013年  2014年 2015年 2016年* 国内の媒介蚊
輸.例 輸入例 国内
感染例
輸入例 国内
感染例
輸入例 国内
感染例
輸入例 国内
感染例
ウエストナイル熱** 0 0 0 0 0 0 0 0 アカイエカ種群蚊(3種)・ヒトスジシマカ
ジカウイルス
感染症***
          6 0 0 ヒトスジシマカ
チクングニア熱 14 0 16 0 17 0 2 0 ヒトスジシマカ
デング熱 249 0 179 162 292 0 137 0 ヒトスジシマカ
日本脳炎 0 9 0 2 0 2 0 0 コガタアカイエカ
マラリア 47 0 60 0 41 0 17 0 ハマダラカ属蚊(5種)

*2016年第21週(6月1日現在)まで
**2005年、輸入例1例の報告あり
***2016年2月より報告対象疾患

 

蚊の活動は本州では一般的に5月~10月頃であるが、南西諸島等ではこれよりも活動期間が長い。コガタアカイエカは、北海道を除く国内全域に生息しており、主に夕方から夜間に活動し、屋内にも入ってくる。ヒトスジシマカは、秋田県、岩手県を北限とする国内全域に生息し(2013年時点)、主に日中に活動する。公園などの茂みに潜み、近くを通るヒトから吸血する。

媒介蚊への対策3)

  • 屋外活動時は、なるべく肌が露出しない服装や履物を着用する。肌の露出部分には、ディートやイカリジンなどの有効成分を含む忌避剤(虫よけ剤)をまんべんなく塗る。長時間の野外活動時は、繰り返し塗りなおす等、用量・用法や使用上の注意を守って正しく使用する。
  • 蚊の繁殖場所を減らす。特にヒトスジシマカは、人工物の小さな水たまりなどでも繁殖可能である(写真1)。自宅・職場など、まず身の回りで、このような繁殖場所を失くす。
  • 屋内の蚊は、捕殺するか、家庭用殺虫剤で防除する。蚊取り線香、蚊取りマット、液体蚊取りなどの殺虫剤は、殺虫効果の他に、蚊を屋内に侵入させない忌避効果も期待される。蚊帳を利用することも効果的である。
写真1 ヒトスジシマカの繁殖場所(文献6より抜粋)

日本脳炎4)

日本脳炎ウイルスを保有するコガタアカイエカ(写真2)に刺されることで感染する。ヒトからヒトへ感染することはない。

写真2 コガタアカイエカ
(国立感染症研究所昆虫医科学部提供)

【症状】感染した場合でも、日本脳炎を発症するのは100~1000人に1人程度とされている。発症した場合、数日間続く38℃以上の高熱、頭痛、嘔吐、下痢などが現れ、その後、意識障害などの神経症状が出現する。患者のうち20~40%が死亡し、生存しても45~75%は生涯にわたって神経学的後遺症を残すなど、重症度が高い感染症である。

【治療】高熱や脳の炎症による腫れ(脳浮腫)に対する薬剤などによる対症療法が中心である。このため、予防が最も重要となる。

【予防】日本脳炎ワクチン:第I期3回、第II期1回、の計4回の接種を完了する必要がある。第I期では、生後6ヶ月以上90ヶ月未満(標準として3歳)に1〜2週間間隔で2回、その約1年後に1回、各0.5mlの皮下注射を行うことによって基礎免疫をつける。その後、第II期として9歳以上13歳未満(標準として9歳)に、1回追加接種を受ける。その他に、前述の媒介蚊対策も怠らないようにする。

ジカウイルス感染症・デング熱3、5)

ジカウイルス、またはデングウイルスを保有するヒトスジシマカ(写真3)に刺されることで感染する。ジカウイルスは性行為による感染もありうる。

写真3 ヒトスジシマカ(国立感染症研究所昆虫医科学部提供)

【症状】どちらも、感染しても約80%は軽症または不顕性感染である。症状はどちらも、発熱(ジカウイルス感染症は微熱であることも多い)、発疹、筋肉痛などであるため、症状だけで診断することは難しく、検査診断が必要となる。デング熱は、まれではあるが重症化することがある。ジカウイルス感染症は、ギランバレー症候群という神経障害を合併したり、妊婦に感染した場合、胎児に小頭症などの先天異常を引き起こしたりすることが、2015年以降明らかになってきた。

【治療】解熱剤や鎮痛剤などによる対症療法が中心である。

【予防】日本で認可されているワクチンはないため、前述した蚊への対策が重要である。また、ジカウイルスについては、性行為感染の予防策も重要となる。

参考文献

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