気になる成長期の子どものスポーツに関わる障害やけが
 

アンチ・ドーピング

 

ドーピングは、スポーツで禁止されている物質や方法(禁止物質・方法)を用いて、本来、その人が持つ能力以上のパフォーマンスを行おうとする行為で、公平・公正を期するスポーツの精神に反するだけでなく、アスリート(選手)自身の健康に影響を及ぼすこともあります。また、故意に禁止物質などを用いる場合だけでなく、意図せず禁止物質を含んでいる薬などを摂取しても違反となります。禁止物質は大衆薬やサプリメント等*注)にも含まれているものがあり、医薬品教育や薬物乱用の面からもアンチ・ドーピングに係わる啓発と正確な情報提供が重要視されています。
*注)栄養ドリンクやサプリメントなどの「食品」に位置付けられている製品は、成分表示が義務付けられておらず、また、漢方薬は動植物が原料であるため全物質名を記載することが出来ない。

■学校教育の現場におけるアンチ・ドーピング教育とスポーツの価値を基盤とした教育実践

平成25年度から実施されている高等学校の学習指導要領体育理論に「オリンピックムーブメントとドーピング」が盛り込まれたことを踏まえ、学校教育において「スポーツの価値」「アンチ・ドーピング」に関する教育が実施されることとなりました。これを受け、公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構(JADA)では、文部科学省の委託事業として、高校保健体育科の副読本「アンチ・ドーピングを通して考える―スポーツのフェアとは何か―」を作成し、インターネット上で公開しており(http://www.playtruejapan.org/code/school/)、また、平成26年度より学校教育現場におけるアンチ・ドーピング教育プロジェクト(スクールプロジェクト)が実施されています。スクールプロジェクトでは、禁止物質・方法やルールの詳細ではなく、アンチ・ドーピングを通してスポーツに対する生徒の視座を養うと共に、スポーツの価値について生徒が主体的に考え、発言することを狙いとしています。さらに、中学校の学習指導要領にて「文化としてのスポーツの意義」が定められていることも踏まえ、スポーツの価値を通して日常生活に活かすこと、さらにスポーツの価値を通して社会の見方や関わり方を考え実践することにも焦点を当てています。

そのスクールプロジェクトの一つ、北海道札幌市の北海道札幌平岸高等学校では2年後の2月に冬季アジア札幌大会、5年後に東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されるのを契機に、デザインアートコースにおいて、「スポーツの価値を基盤とした授業」が行われました。この授業は、ドーピング問題をアスリートだけでなく社会全体で考えていこうという観点から、保健体育の時間に薬物乱用防止教育を含めてスポーツの価値やアンチ・ドーピングについて学び、続いて美術の時間においてアンチ・ドーピングに関するメッセージに込めた「自分が世界へ発信したいスポーツの価値」をデザインで表現、生徒たちはアンチ・ドーピングの考え方について、「禁止」や「違反」などネガティブなイメージだけでなく、スポーツの本来の姿やフェアの精神などポジティブに伝えていくことを心がけ、後日、クラス内でデザインの発表会が持たれました。

平成27年度、このスクールプロジェクトは、運動部に所属する生徒だけでなく、日常的にはあまりスポーツに携わっていない生徒も対象として、札幌の他に山形県、福岡県の学校ですすめられており、今後、全国で「スポーツの価値を基盤とした授業」の展開が期待されています。

■アスリートへのサポート

アスリートはその責務の一つとして、病院で診察を受ける場合や薬局で薬を購入する場合など、かかった医師がアンチ・ドーピングの知識があるかを確認したり、スポーツファーマシスト(以下、参照)がいる薬局を探すなど、自らリスクを回避し、リスクマネジメントを行わなければならないとされています。また、「故意」「過失」にかかわらず、あくまでアスリート本人が「身体に摂りいれるものに責任を持つ」ため、たとえ周りの人たちが禁止物質が入っているかぜ薬などを知らずに供与したとしても、その摂取については自己の責任となります。世界アンチ・ドーピング規程では、18歳未満の未成年者には、「証明責任の軽減」や「検査への成人の付添」などいくつかの特別措置が設けられていますが、未成年者の場合は特に部活動やクラブの指導者や家族など周りの人たちが正しい知識を持ち、ルールを理解することが重要です。

禁止物質・方法に関するアンチ・ドーピングの情報は、スポーツファーマシストやGlobal DROなどから得ることができます。

 

−スポーツファーマシストhttp://www.realchampion.jp/knowledge/pharmacist_listen

スポーツファーマシストは、最新のアンチ・ドーピング規則に関する情報・知識を持ち、競技者や指導者への薬の使用に関する情報提供・啓発のほかに、学校教育での薬の正しい使い方の指導や健康教育などの普及・推進、啓発などを行う専門家です。

JADAと公益社団法人日本薬剤師会がパートナーズシップを結び、薬剤師の資格を持つ者が所定の課程を修めるとスポーツファーマシストとして認定されます。平成27年度現在、約7,000名が認定されており、学校薬剤師も多く認定されています。
(スポーツファーマシスト検索:
http://www.realchampion.jp/knowledge/pharmacist_search

 

−Global DROhttp://www.globaldro.com/JP/search

ウエブやスマートフォンから、薬の成分に禁止物質が含まれているかどうか検索が可能です。検索結果は、必ずスポーツファーマシストと一緒に確認しましょう。

■今後の展望

世界アンチ・ドーピング機構(WADA)や世界保健機関(WHO)ほか世界の主要関係機関、専門家が参加して2012年にスウェーデンで開催された国際シンポジウム「パブリックヘルスとしてのドーピング」では、スポーツ界だけでなく一般社会においてもドーピング物質の乱用を防ぐ戦略として、「ドーピング物質の乱用が行われない社会をつくること」「違法薬物を撲滅すること」「飲酒・喫煙に関わる、健康および社会的福利への危害を減らすこと」という目標が定められました。現在、ドーピングは、スポーツという限定された範囲での問題ではなく、社会的な課題として社会全体で取り組むべきものだと考えられます。2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けてスポーツに対する関心が高まる中、学校教育の現場におけるアンチ・ドーピング教育は、その大前提の目的や考え方、スポーツの価値を通して、社会や生き方に対する児童・生徒の大局観を養うことができるものとして、期待されています。また、スポーツの価値を次世代につなげていくと同時に、社会の活性化や国際社会への貢献等の取組の拡がりが期待されています。

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