第19回「生活習慣病予防のための健康管理・指導」

座談会出席者

コーディネーター/衞藤 委員長(日本子ども家庭総合研究所所長)
コーディネーター/
日本子ども家庭総合研究所所長
衞藤 隆先生
千葉県市原市立五井小学校  養護教諭 木嶋 晴代先生
千葉県市原市立五井小学校
養護教諭 木嶋 晴代先生
茨城県大洗町立南中学校   養護教諭 叶  智子先生
茨城県大洗町立南中学校
養護教諭 叶  智子先生
  滋賀県守山市立吉身小学校  養護教諭 徳冨 順子先生
滋賀県守山市立吉身小学校
養護教諭 徳冨 順子先生
東京都足立区立花畑北中学校 養護教諭 道幸 玲奈先生
東京都足立区立花畑北中学校
養護教諭 道幸 玲奈先生

■保健室から見た子どもたちを取り巻く生活習慣病の現状

衞藤 本日は、「生活習慣病予防」に焦点をあて、学校での健康管理や指導をテーマに座談会を企画いたしました。今回、ご出席いただいた先生方には、いろいろな学校の現状を踏まえてお話しをいただけたらと思っております。
生活習慣病という言葉自体は、平成8年に当時の厚生省の公衆衛生審議会の中での部会で使われ、それ以前は成人病という呼び方で、働き盛りの年齢を対象に、がんや脳卒中などの大人の疾患対策というような考え方でした。しかし、そのような疾患でも日々の生活習慣の積み重ねで起こる部分が大きいので、それを予防するということがとても大事だという意味を込めて生活習慣病という名前がついたというふうに記憶しております。学校に通っている年代の子どもが実際にその病気になるということはないわけではありませんけれど基本的には稀であって、むしろ準備される期間、その時に正しい生活習慣を身につけるということがとても大事だという意味合いで、学校教育の中では扱われています。健康管理や指導も発育段階に応じて小学校と中学校では違うでしょうし、また地域によってもいろいろ違いもあるようです。現代という時に主軸を置いて、これから未来に向けて育っていく子どもたちが健やかに育つようにという意味合いを込めて今、生活習慣病でどういうことを留意すればいいかということも含めて、いろいろ忌憚のないお話しを伺えればと思っております。
まず、日々、子どもたちに接する中で生活習慣に係わる問題点や心配な点などいかがでしょうか。

木嶋 小学校で一番気になることに、体調不良を訴えて保健室に来る児童の中には、朝食を取らずに登校してくる場合が多いことがあげられます。夜更かしをし、寝坊したため朝食を取る時間がない、夕飯の時間が遅い、夜遅くまでおやつを食べて、朝、食欲がない、さらに、朝食が用意されていないため、空腹のまま登校せざるを得ないなどです。家庭環境や保護者の方の都合で、子どもにはどうすることもできない家庭が少なくない状況が見られます。早寝、早起き、朝ごはんは健康増進には必要不可欠です。小学校のうちから身につけさせてもらいたいのですが、なかなか厳しい家庭もあります。

徳冨 今、木嶋先生がおっしゃられたようにやはり二極化ということを非常に感じます。今の学校は教育熱心で、生活習慣も整った家庭の多い地域ですので、塾通い・習い事・地域スポーツのクラブ等で非常に子どもが疲れているというような現状があって、ストレスや睡眠不足などの課題を非常に感じます。家庭はたくさんの情報を持っておられ、子どももそうですが知識ではわかっていても、だれもが忙しくなかなか日々のブラッシングが丁寧にできないといった基本的な健康習慣が定着しきっていない子どももみられます。小学校ですので肥満とか痩せ傾向というところも気にはなるのですが、一番身近な歯科保健指導から取り組んでいければと今考えているところです。

衞藤 中学校ではいかがでしょうか。

叶  中学校では、将来に向けて、自立を目指した生活を身に付けるという意識をより深めていきたいと思っているのですが、実態は小学校と同じように、朝食の摂食率に課題があります。「いつも朝食を摂る」という生徒は約85%、これは全国平均に比べて、若干低めです。さらに、朝食は摂っているけれど内容的に乏しいというところも中学生は特に顕著に出てきています。先ほど、家庭の背景があるということですが、中学生になるとさらに、親は、それほど手を加えなくても、子どもが自分でできるのではと思いがちになり、親の手が離れてしまっています。この点につきましても実態調査では、「朝、朝食を誰と一緒に食べていますか」という問には、「1人、または兄弟のみ(子どもだけ)」というのが4割いるという実態がありました。親が朝食を摂っている子どもの様子を毎日見ていない。「孤食」の増加を実感しています。また、生活リズムの課題として、就寝時刻がどんどん遅くなっており、睡眠時間が足りなくなってきています。5時間という子も多く、授業日にはそれでも意識はしているようですが、土日の生活が乱れがちです。基本的な生活習慣がまだまだ身についていない、実践が困難になることを感じます。基本的な生活習慣をどのように子どもたちに身につけさせていけばいいのかというのが中学校としても課題に入っています。

道幸 本校の現状としては2年生で貧血・小児生活習慣病予防健診という血液検査、血圧検査、それに肥満度を総合して診る検診があるのですが、正常という生徒が60%弱。あとの40%以上の生徒は血圧か脂質、肥満度に問題があると判定されてくる状態です。肥満傾向も高く、肥満度50以上の高度肥満の生徒も3%ほどいて、特に体重指導も重要になってくるというのは、すごく実感しています。朝食に関しては9割以上の生徒が食べていると答えているのですが、先ほどの叶先生も内容に問題があると言われましたが、何を食べてきたのかというとビスケットひと欠片、それって食べたことに入るのかなと思うような食生活を送っている生徒も多くいます。学校では家庭に介入して改善していくというのは難しいと思うんですけれど、中学校なので生徒が自分で望ましい生活というのはどういうことなのかわかってくれるよう指導していきたいと思っています。

衞藤 ひと通りお話しをいただきましたけれど、かなり共通の現状、子どもにとってはどうしようもない社会的決定因子として子どもの貧困が増えているなどといった格差ということが問題になっています。健康の増進、すなわち、ヘルスプロモーションというものが個人のスキルを高める一方で、環境からの支援との両方が条件になっているということを考えると生活習慣病の予防というのも個人個人の努力だけに任せているというのは非常に片手落ちなのだろう、何をすればいいのか分からないという時には環境の支援ということを視点に考えていかなければいけないと私は感じました。そういった家庭の問題とか、今どのように介入なり、サービスなりあればいいのかというのは、なかなか回答は難しいかもしれませんが、子どもたちの現状を踏まえて、できることを行っていくということではないかと思います。朝食の話が最初に出てきましたが、朝食を提供するようなサービスというのも現れ、海外、むしろ貧困者が多いような地域ではそういうようなこともやっている。それが解決策かどうかは別として、いろいろとそういった状況に応じて考えなければならないことがあるのではないかと、何も保健室だけがとか学校だけがとか、そういう上部的問題じゃなく地域全体として見ている、特に行政の力というのは、必要なのだとは思いました。これから先の子どもたちのいろいろ格差の問題などは、やはりここ数年、非常に関心が高まってきています。朝食欠食ということは、やはり血糖が上がらず、午前中、調子が悪くなるのでしょう。それは子どもたち個人の力だけではなかなか解決できないと思ったりするのかもしれません。しかし、中学生くらいなら自分で用意するように仕向けたりするということも聞いたことがあります。なかなか家庭の問題には学校としては入れないですね。