第12回「児童生徒の耳・鼻・のどの健康」

2.耳の健康

Q. 子どもに多い耳の疾患はどんなものがありますか。

A. 学校保健に関連する耳の疾患とケアについては、大きく「外耳・中耳疾患」と「内耳疾患」に分けて考えるとよいでしょう。外耳・中耳の代表的な疾患は「耳垢栓塞」「外耳炎」「中耳炎」であり、内耳の疾患は不快域値に近い大音量で聴いているうちに起こりうる「急性音響性聴器障害」(いわゆるヘッドフォン難聴など)そして瞬時の激烈な強大音暴露によって起こる「急性音響外傷」(運動会のピストル音を耳元で聞いたときなど)等があります。また鼻の病気が耳に重大な障害を起こしうることも忘れてはなりません。
 音の伝達経路は下図に示したとおりで、<1>の耳介で音を集めた後は番号順に外耳・中耳・内耳を経由し、<6>の蝸牛神経を介して大脳に伝えられます。これらの経路のうち、どの部位が障害されても音は正しく伝達されず、難聴が起こります。

【耳垢栓塞】
 耳垢栓塞とは、耳垢がたまって外耳道を栓のようにふさいでしまった状態を言います。完全に塞がってしまうと難聴を訴えることもあります。またプールなどで耳垢が水でふやけて膨張すると、外耳道を塞いで難聴を起こすだけでなく外耳炎の原因にもなります。自然に起こるものに加えて、耳掃除中に綿棒などで奥に押し込んでしまう人為的なものも少なくありません。ご家庭で子どもの耳掃除をする場合はいくつかの注意点がありますが、詳しくは次項をご参照ください。

【外耳炎】
 いわゆる耳の中のおできのことです。不潔な耳掻き、指の爪などで外耳道の皮膚に傷を作った場合に感染を起こして発病します。アトピー性皮膚炎や湿疹があると皮膚の防御機能が低下していることもあります。プールなどで汚い水が外耳道に入ると耳垢がふやけて膨張し、細菌感染を起こすことがあるため、プールの授業前までに耳垢を取ることをお勧めしますが、取れないときは無理をせずに耳鼻咽喉科を受診してください。
 症状は主に耳の痛みですが、耳をひっぱった時や入り口を押した時、あるいは咀嚼時などに痛みが増強するのが特徴です。痒みや熱感があるだけの場合や、耳だれを伴うこともあります。外耳炎予防のためには、次の点に留意します。
 <1> 汚れた指や爪で必要以上に耳を触らない。
 <2> 耳垢が溜まった状態でプールに入らない。
 <3> 耳掃除をし過ぎない。不潔な耳掻きや綿棒は使わない。

【中耳炎】
1. 急性中耳炎
 中耳腔と鼻の奥(鼻咽頭腔)をつなぐ「耳管」という管を経由して、細菌やウイルスが中耳粘膜に感染を起こす病気です。かぜをひいた時など、鼻やのどの炎症をきっかけとして中耳に炎症を引き起こすことが多いです。
 症状は耳の痛み、発熱、耳だれ、耳閉塞感などが起こります。痛みを訴えられない乳幼児の場合は、耳をしきりに気にする、機嫌が悪い、突然泣くなどの仕草が目安になります。軽症の場合は抗生物質や消炎剤の服用で治ります。しかし鼓膜の腫れがひどく、激しい痛みや高熱を伴うときは鼓膜を切開して貯まっている膿を出します。鼻汁・鼻閉・咽頭痛などのかぜ症状があれば、併せて治療することが重要です。
 適切に治療すれば後遺症もなく完治しますが、途中で治療を中断したり医師の指示どおり抗生物質を服用しなかったりすると、中耳炎の再発(反復性中耳炎)や滲出性中耳炎などへ移行してしまうことがあります。完治するまで耳鼻咽喉科でしっかりと治療することが大切です。
 中耳炎予防のためには、鼻汁・鼻閉・咳などが続くときは早めに治療することが第一です。そして無理に鼻をかむと耳管を介して炎症が中耳腔に波及しやすいため、片方ずつゆっくりとかむようにしてください。また鼻汁が多い時やかぜ気味の時にプールに入ると中耳炎を起こしやすいので注意してください。

2. 滲出性中耳炎
 鼓膜の奥にある中耳腔に滲出液が貯まる病気です。「耳管」には中耳腔と外耳道の気圧を平衡に保つ働きと、中耳腔の貯留液を鼻咽頭腔に排泄する働きがあります。その働きが低下すると換気が不十分になって中耳腔の圧が調整できなくなり、滲出液が貯留して難聴や耳閉塞感(耳がふさがったような感じ)、自声強調(自分の声が耳に響く・こもる)などの症状が起こります。急性中耳炎と違って強い痛みや発熱を伴わないことも特徴です。子どもでは3歳頃から10歳頃までに多く見られる病気ですが、小学校低学年まではこれらの症状を自分から訴えることは少ないため、本人や保護者が気付かないうちに進行している場合も少なくありません。
 滲出性中耳炎は子どもの難聴の原因として最も多い病気です。難聴が唯一の症状であることも多く、その程度も様々です。軽度の難聴の場合は見過ごされてしまうこともあるので注意が必要ですが、次のようなことを家庭でチェックしてみるとよいでしょう。
 <1> テレビの音が大きい、ボリュームを上げる
 <2> 呼んでも返事をしない・振り向かない
 <3> 大きな声で話をする
 <4> 耳を気にして触っている
 <5> 耳の中でガサガサ音がすると言う
 以上のような症状・仕草が気になったら、耳鼻咽喉科専門医を受診して下さい。
 咽頭炎や感冒などの急性疾患、アレルギー性鼻炎や鼻副鼻腔炎などの鼻疾患、アデノイド増殖症などが耳管の働きに悪影響を与える原因となるため、鼻・のどのケアを心がけることが滲出性中耳炎の予防につながります。風邪をひいた時も鼻汁や咳を長引かせないように、早期に治療することが大切です。
 また治療中はプールに入っては駄目という意見もあります。しかし耳だけでなく鼻の状態をみたうえで、プールに入る前後でしっかりと鼻汁をかみ出せれば許可できる場合もありますが、プールで悪化するようなら止めてもらう必要があります。プールの可否は医師によっても見解が異なりますので、日頃から通院治療し、子どもの中耳炎の状況を知っているかかりつけの耳鼻咽喉科医師の判断を仰ぐのがよいでしょう。
 適切な治療を受ければほとんどの場合は完全に治りますので過度な心配は無用ですが、治療は年単位に及ぶことも多いため、根気よく通院治療する必要があります。耳鼻咽喉科専門医の指示に従って治療を受けてください。

3. 慢性中耳炎
 急性中耳炎が治りきらずに鼓膜にあな(孔)が開いたままになって耳だれを繰り返す「慢性化膿性中耳炎」のほか、「癒着性中耳炎」や「真珠腫性中耳炎」があります。抗生物質の進歩や環境変化により、慢性中耳炎の子どもは以前と比べて飛躍的に減少しました。治療は基本的には急性中耳炎と同様です。しかし耳だれを繰り返す場合は難聴が進行することもあるため鼓膜の穿孔部をふさぐ手術を行います。真珠腫性中耳炎は将来的に難聴の他、めまい、顔面神経麻痺、髄膜炎などの重篤な合併症を引き起こす恐れがあるため、手術治療が第一選択になります。このように中耳炎を「慢性化」させないためにも、日頃から鼻・のどのケアが必要です。

【急性音響性聴器障害】
 ヘッドフォンでロックなどの音楽を大音量で長時間聴き続けたり、ロックコンサートで強大音を持続的に聴き続けた場合などに起こります。日常の会話レベルの音量(聴きやすい音量)が40〜60デシベルであるのに対し、ロックコンサートなどでは100〜120デシベルの大音量に曝されます。その際内耳の蝸牛にある有毛細胞がダメージを受け、一過性の聴力低下(聴覚疲労)が起こります。普通は徐々に改善するのですが、強大音への曝露時間が長くなると障害が高度となり難聴を引き起こします。
 ヘッドフォン難聴については後述する内容をご参照ください。

【急性音響外傷】
 125〜135デシベル以上の予期せぬ突発的な強大音暴露によって起こる難聴です。運動会でスターターのピストル音を耳元で聴いてしまった時、爆竹や花火が耳元で暴発した時などに起こる可能性がありますが、「予期できない」強大音が原因であるため予防は困難です。前述した「急性音響性聴器障害」は、ヘッドフォンやロックコンサートなど強大音であることを承知の上で暴露し、結果的に難聴になるという点で大きく異なるわけです。
 急性音響外傷は予防が困難であることに加え、内耳の有毛細胞も高度に障害される危険があります。従って耳鳴り・難聴・耳閉塞感・めまいなどの症状が続くようならば、できるだけ早急に専門機関を受診して治療を受けてください。

 

Q. 耳の手入れで気をつけなければいけない点を教えてください。

A. ご家庭で子どもの耳の手入れ、つまり「耳掃除」をするときには、注意すべきことがいくつかあります。

<1> ほとんどの耳垢(耳あか)は外耳道入り口から1cmほどの所にたまるため、綿棒などを使って見える範囲のものだけを無理せずに取るようにしましょう。

<2> 奥までいじりすぎたり強く掃除したりすると、逆に耳垢を押し込んでしまったり外耳道を傷つけることがあるので注意しましょう。

<3> 耳掃除をしている時に他人と接触したり、歩きながら掃除している時に肘が壁などに当たって鼓膜を破ったりする事故も多いので注意しましょう。

<4> 少しでも耳垢があると気になる人、完全に取れないと気が済まない人もいますが、耳垢は弱酸性で蛋白分解酵素が含まれているため殺菌効果があること、脂肪分が敏感な外耳道皮膚を保護していること、苦味があるため虫などの進入を防いでいることなど重要な役割も担っていますので、耳掃除のやり過ぎは禁物です。

<5> 耳掃除のやり過ぎがよくない反面、しなさ過ぎも問題です。耳垢がたまりすぎると聞こえが悪くなったり湿疹を誘発することもあります。耳垢が外耳道皮膚に固着してしまうこともありますが、このような場合は無理せずに耳鼻咽喉科専門医に取ってもらってください。

 

Q. (子どもの・自分の)耳垢が湿っているのですが、なにかの疾患があるのでしょうか。

A. 耳垢は外耳道にある皮脂腺や耳垢腺から出る分泌物に、外部のホコリや古くなった皮膚などが混ざったものです。分泌物の違いにより、湿った耳垢(湿性耳垢、「べた耳」)と乾燥した耳垢(乾性耳垢、「こな耳」)とに分類されます。耳垢の性質は遺伝的な要因が強く、湿性耳垢は常染色体優性遺伝であることもわかっています。人種によっても大きな差があり、日本人全体では湿性耳垢の割合は約16%ですが、欧米人は90%以上が湿性耳垢であると言われています。また国内でも地域差があるようです。
 湿性耳垢の状態もサラサラのものから粘土状のものまで様々ですが、湿った耳垢であること自体は病気ではありません。しかし急に耳垢が湿ってきた場合は中耳炎や外耳炎を起こしている可能性もあります。乾性耳垢が湿性耳垢に変わることはありえませんので、耳鼻咽喉科専門医を受診することをお勧めします。

 

Q. 鼻をすすりすぎると中耳炎になるという話を聞きましたが、どういうことでしょうか。

A. そもそも私達はどういう時に鼻をすするのでしょうか。最も多いのは鼻に病気があって鼻水をすすりあげる場合です。風邪で鼻水が出ているときや、鼻がつまっている時にもすすることがあると思います。しかし、これらによる鼻すすりは、病気や風邪が治れば、自然としなくなるのが普通です。ところが、一部の子供では病気や風邪が長引いたりしている間に、鼻をすすることが癖になってしまうことがあります。
 それでは、鼻をすする癖があるとどのような中耳炎になるのでしょうか。子どもの滲出性中耳炎の約13%に鼻すすり癖と鼻の疾患が原因と考えられたという報告があります。その他、鼻すすり癖が真珠腫性中耳炎や癒着性中耳炎などの原因の一つになっていることもわかってきています。これら2つの中耳炎は手術的治療が必要になることが多いです。
 滲出性中耳炎や、真珠腫性中耳炎は耳管に狭窄があるためになると考えられてきましたが、近年の研究で耳管に狭窄がある例は多くないことが判明しました。むしろ耳管が閉鎖しない(閉鎖不全と呼ばれている)ことが、鼻すすり癖によって中耳に影響を与えるとされています。鼻すすり癖が中耳炎の原因となる機序は次のように考えられています。

図 鼻すすりによる中耳腔陰圧化の機序(小林俊光ら、耳展40:3;342−346、1997)

 耳管は長さ約3.5cm(成人)の中耳と咽頭をつないでいる管腔で、中耳と上咽頭に開口しています(耳の解剖図参照)。正常の耳管は普段は閉じていますが、嚥下やあくびをした時に開き、中耳の中の気圧と外界の気圧がほぼ等しくなるように調節しています。ところが、耳管の閉鎖する力が弱いために完全に閉じない人がいます。このような人が鼻をすすると咽頭に生じた陰圧で中耳の中の空気も吸い出され(図−A)、その結果中耳の中が陰圧になるとともに耳管がつぶれたようになり閉鎖(ロック)してしまいます(図−B)。この状態になると閉鎖力の弱い耳管では嚥下やあくびによって陰圧を解除できなくなります。常に鼻をすすっていると、中耳腔の陰圧が持続し鼓膜の陥凹と滲出液が貯留(図−C)して滲出性中耳炎、ひいては真珠腫性中耳炎、癒着性中耳炎などに進展します。
 この他に、耳の不快な症状を抑えるために鼻をすすっている場合もあります。この不快な症状は上述の耳管の閉鎖障害に起因するもので、嚥下やあくびで開いた耳管が開放したままになり、耳がつまった感じや自分の声が耳に響くなどの症状があります。これらの症状を解消するために鼻すすりを無意識のうちに行うようになり習慣となってしまいます。このような場合にも、真珠腫性中耳炎や癒着性中耳炎の誘因になります。真珠腫性中耳炎の約3割に耳の不快症状を軽くする目的で鼻すすり癖があると報告されています。
 鼻すすり癖を止めるだけで、中耳の病変が著しく改善することも確認されています。鼻すすりの原因となる鼻の病気の治療は非常に大切です。鼻すすりの癖がある子どもには止めるように注意し、どうしても止められない場合は一度耳鼻咽喉科で原因を調べてもらうことをお勧めします。

 

Q. ヘッドフォン難聴について教えてください。イヤホン(またはヘッドフォン)の形状でなりやすいとかなりにくいとかはありますか。

A. ヘッドホン難聴は、ヘッドホンやイヤホンから音楽を強大音量できくことによって生じる難聴です。ロックコンサートやディスコなどで起こった場合には、それぞれロックコンサート難聴、ディスコ難聴と呼ばれています。これらは音響外傷といわれるもので、強大音により急性に難聴を発症する場合と、長期間大きい音に暴露されている間に気づかないうちに発症する場合があります。近年の携帯型音楽プレイヤーの普及によりヘッドホンやイヤホンで長時間にわたって音楽を聴く人が増え、これによる難聴の増加が危惧されています。
 耳にとっては、大きな音で、長時間、高い周波数の音を聴くことが良くないとされています。難聴にならないためには、適切な音量で耳を休めながら音楽を楽しむことです。強大音にさらされて損傷を受けても、音から離れることである程度は回復しますし、損傷までいかず疲労の段階であればさらに回復の可能性は高まります。高い周波数の音は空気中を伝わっている間に弱まりますが、ヘッドホンの場合、音源からの距離が短いためあまり弱まらずに直接伝わるのでダメージがより大きくなります。音を聴くのに重要な働きをする内耳には、高周波数帯域の音によって損傷を受けやすいという特徴があるのです。
 内耳の感覚細胞が一部でも損傷を受け失われると再生しませんので、回復は困難です。慢性的に強大音にさらされていると、次第に日常会話などに含まれない高い周波数帯の音から聞こえが悪くなります。したがって、初めは聞こえが悪いと感じることはありませんが、進行して中音〜低音域が聞こえなくなってくると、自分でも聞こえが悪いことに気づきます。また、ヘッドホンで音楽を聴いている最中、あるいは直後に耳に異常を感じ、急性の難聴を発症することもあります。
 難聴が軽度で早く治療を開始した場合は治ることもあります。ヘッドホンで音楽を聴く人は、耳の塞がった感じや耳鳴りがする、聞こえかたがおかしいと思ったらできるだけ早く耳鼻咽喉科を受診することをお勧めします。しかし、ヘッドホン難聴は治療を行っても必ずしも治るとは限りませんので、予防に勝る治療法はありません。また、ヘッドホンの形状の違いで難聴になり易いとかなり難いとかはありません。どんな形であれ、適切な音量で聴くことが一番です。難聴にならないように以下の点に注意しましょう。
(1) 長時間聴かず、適宜に耳を休ませましょう
(2) 適切な音量で聴きましょう。クローズド型では片方のヘッドホンをはずし、はずした方から聞こえてくる通常の話し声と同じ程度に聴こえるように音量を合わせる、オープンエア型では静かな室内でヘッドホンで音楽を聴きながら会話ができる程度に音量を調節し、騒がしい所でも音量を上げないようにすることが提唱されています。
 その他、音に対する感受性は個人差が大きいので、同じように強大音に曝されても難聴になる人とならない人がいます。また、体調も関係しますので過労、睡眠不足などがある時には注意してください。これらは、ロックコンサートなどの場合にもあてはまります。耳がおかしいと感じたら途中で止めて出る勇気も必要です。
 ヘッドホン難聴やロックコンサート難聴は予防できるものです。保護者はもとより子ども本人への指導が難聴の予防に大変重要です。

教材用コンテンツ