第11回「保健室で知っておくべき精神保健の基礎知識」

2.精神障害

Q.子どもの精神障害についてお聞きしたいのですが。

A. 子どもの精神障害の多いものとしては、心身症、身体表現性障害、不安障害(強迫性障害、恐怖症)などがあげられますが、最近ではうつ病や躁うつ病という気分障害が注目されています。また統合失調症の早発型である小児統合失調症も時にみられ、これは自閉症との鑑別が困難な事例も少なくありません。

 

Q.精神障害のある子どもの共通点や特徴、発達段階での違いなどについて教えてください。

A. 共通点としては、子ども自体の病識があまりないこと、心理的な状態の言語化が困難なことでしょう。年齢が低い子どもは、ストレス表現が直接行動に現れたり、頭痛や腹痛など心身症の症状として外在化する傾向にあります。また、なにかの拍子にパニックを起こす子どももいますが、所謂大人の病気であるパニック障害は基本的には子どもにはないというのが通説となっています。子どもの場合のパニックは強い不安状態におちた時などにみられる反応であって、基本的に誘因無く起るパニック障害と、このパニック状態は違うものであると考えられています。自閉症児では過度の緊張感から暴力的行動を起こす場合がありますが、本人に聞いても原因を認識しておらず、原因探しは困難な場合が少なくありません。このような場合は特定の原因を求めるよりも、全体としてその子どもの緊張しやすい場面を見出し(繰り返しおこる場面など)、その場を回避できるように誘導することが大切です(音楽室の音が苦手、逆に教室の中が静か過ぎると苦手、など)。
 発達段階でいうと、年齢が10歳を超えてくると、自我の構造が次第に明確に形成されるようになり、自分というものを客観視して、自己の内面を言葉で描写することも可能になってきます。このような心理的な成熟は女子のほうが一般に早く進みます。

 

Q.日常観察のポイントを教えてください。

A. 子どもの精神疾患の場合は行動の変化に現れやすいものです。これまで友達とよく遊んでいたのに一人でいる時間が多くなったり、遊びに行かなくなったり。また、食事の量が減った、突然粗暴になった、または大人にまとわりつくようになった、突飛な行動をとるようになった、など日常と違う行動の変化が現れたら注意すべきです。

 

Q.すぐに専門の医療機関につなげた方がいい場合の判断はどうでしょうか。

A. 異常は感じるけれど、本人と疎通が取れない、混乱している、行動に不自然さが目立つ、などが緊急的な事態でしょう。また、自殺のほのめかしも行動や言動の面で注意が必要です。発達障害の時にも話しましたが、学校教育の中で限界を感じたら専門医へつなげてください。限界の感じ方は人によって様々ですが、放置すると自殺など大きな要因となる場合がありますので、ご自分の経験もさることながら、早期に異常を感じとり、早めの対応が原則です。
 医療機関につなげる場合、その異常が発達障害による反応性のものなのか、精神障害なのかは、専門の児童精神科医でないと鑑別は困難です。地域の医師を探すには、児童青年期精神医学会の認定リストをインターネットでご覧になるか、地域の精神保健福祉センターに連絡し、対応医師を紹介してもらうのも一つの手段です。

 

Q.さきほど自殺のほのめかしという話がありましたが、リストカットなど自傷行為があった時の留意点を教えてください。

A. 自傷行為は15歳以下の年齢では自殺との関連性は低いとの調査がありますが、頻回に繰り返されるものでは留意が必要です。対応としては、行為を非難しないで、最近身の回りで起きた変化や困っていることがないか尋ねます。そしてその要因になることをどうしたらうまく処理できるかを一緒に考えていきます。しかし、実際の事例では単純な要因によることより、子どもの性質、家庭や学校の環境など複合的な問題が多く、安易な原因探しは危険です。切りたくなったら保健室や担任に言いに来るというのも一つの方法ですが、身体による精神的緊張を緩和する方法として、深呼吸を10回、両手を堅く握って放す行為を10回、とか、感覚刺激への置き換えの目的で、トイレに行って冷たい水で手を洗う、顔を洗うというのも急場の対応としては有効です。また、自閉症圏では、些細なことを誘引に事象が生じます。自閉症児の場合、頭を壁に何度も打ち続けるなど行為を連続的に繰り返す(常同反復)のが特徴ですが、この場合は、教室などから移動し、場面を変え子どもに対する刺激量を調整することや、持続する場合は薬物療法が有効な場合が少なくありません。

 

Q.リストカットには数人が一緒になって行為に及ぶという流行りのようなものがあると聞いたのですが、いかがでしょうか。

A. 流行しているということは明確では有りませんが、インターネットなどを介して、いやな気分を変える方法として広く知られており、近年、自傷行為は一般の児童生徒のなかに10%前後の高率でみられるようになっています。これには自殺には結びつかない自己緊張緩和の手段としての行為も含まれており、最近では自傷行為を自殺的自傷行為と非自殺的自傷行為は分けて考える研究の傾向もみられます。しかし、この2つを分けて判断するのは、実際には専門家にも難しい課題です。非自殺的自傷行為であっても繰り返されれば自殺と永い間には結びつく可能性も指摘されており、教育現場では種々の精神的問題の一つの現れと受け取り、どのようなことがその子どもの背後に起っているのかについて考えてみる必要があるでしょう。