第5回「感染症」

インタビュー

学校で流行する感染症と結核検診の変更

季節性インフルエンザが流行りはじめるこの時期、今回の特集のテーマは「感染症」です。この夏、感染症の話題のなかで養護教諭の先生方から「手足口病」「伝染性紅斑(リンゴ病)」という病名をよく耳にしました。そこで、最近流行った感染症やこれから懸念される感染症の状況、学校での対応を国立感染症研究所感染症情報センターの岡部信彦センター長に、来年度の結核検診の変更について文部科学省スポーツ・青少年局の有賀玲子専門官にお話を伺いました。

聞き手・文作成/日本学校保健会事務局

Ⅰ.最近流行した感染症、これから流行が懸念される感染症とその対応

【流行状況】

――最近の感染症の流行状況をお聞かせください。

今年度は春の連休の頃に腸管出血性大腸菌O111による広い範囲での食中毒がありました。一部の焼肉店で生肉料理であるユッケを食べた人たちの中から多数の人たちが発症し、しかも5名もの亡くなった方がいたというものですが、この事例によって現代人の「食」に対する考え方が見直されるようになりました。

日本小児科学会ではことに小児には生肉や生レバーを食べさせないよう提言をしています。食肉類には元々細菌がついているのは当然と考えるべきで、食の安全性からすると、生食は相当のリスクを負う行為だということです。腸管出血性大腸菌にはほかにもO157やO26などが代表的ですが、これらは特に小さな子どもや高齢者が重症化しやすい傾向にあります。肉類とは別ですが、カキなどの二枚貝の生食や加熱不足もノロウイルスに感染するリスクが高いので、重症化は稀ですが小児や高齢者に対してはやはり注意が必要です。

この春から夏にかけて流行した主な感染症としては、伝染性紅斑、手足口病。そしてマイコプラズマ肺炎は現在でもまだ流行しています。

これからの時期にかけては、ノロウイルス、ロタウイルスによる感染性胃腸炎やインフルエンザの流行が懸念されるところです。また、乳幼児に多い疾患ですが、RSウイルス感染症も今年度は例年より早く流行がスタートしました。このウイルスは、特に乳児で重症化しやすく、小さなお子さんがいるご家庭は心に留めておいてください。

 

【主な感染症の対応】

1.手足口病

――手足口病の特徴とはどんなものでしょうか?

手足口病は、典型的な症状として、手・足・口に水疱性の発疹ができるので手足口病と呼ばれています。この夏に流行ったものは、手足口だけではなく、肘や膝、臀部などにも発疹がみられ、爪にも変化が現れたりすることが多かったことが特徴的でした。

――この病気の原因は?

この病気は、コクサッキーA16、エンテロウイルス71(EV71)などのエンテロウイルス(腸内ウイルス)の感染によるものが多いのですが、今年はエンテロウイルスの仲間であるコクサッキーA6というウイルスによるものが多かったことも珍しいことでした。

通常手足口病は、発熱を伴っても軽症で治ることがほとんどですが、その原因がEV71の場合は、髄膜炎や脳炎などを引き起こす割合が高く、注意が必要です。アジアの国々ではEV71による手足口病が流行し、多数の死者も発生しているので問題となっています。

エンテロウイルスに一度感染すると免疫ができるのですが、手足口病の原因となるエンテロウイルスの種類がたくさんあるので、ウイルスの型が違えば繰り返して手足口病になることは珍しくありません。ワクチンはいまのところありません。

――学校や家庭での対応は?

潜伏期間は3〜4日、合併症と脱水症状に注意をしながら経過観察をする程度で通常は3〜7日で治ります。しかし、症状がなくなっても2~4週間もの長い間ウイルスが便中に排泄されるので、症状がある間だけ登校・登園停止の処置を行っても流行の抑制にはつながりません。一方そのために元気な子どもたちを長期間学校や幼稚園などを休ませることは実際的ではないので、休むのはせいぜい症状の強い間だけ、ということになります。

予防対策としては、接触感染(糞口感染)が主な感染経路なので、手洗いが重要になります。特にトイレの後の手洗いは、普段からきちんとするようにしつけること、オムツなどの後始末後は丁寧に手を洗うことなどを伝えることが重要です。

 

2.伝染性紅斑

――伝染性紅斑の特徴はどんなものでしょうか?

伝染性紅斑は、頬が赤くなるのでリンゴ病とも呼ばれています。手足にもレース状あるいは環状といわれる発疹が現われるのも特徴的ですが、中には赤い細かい発疹が全身にあらわれることもあり、風疹などとの区別が難しい場合もあります。大人では関節痛などを伴うことがあります。

――この病気の対応は?

この病気は、ヒトパルボウイルスB19というウイルスに感染することで発症しますが、患者からのウイルスの排泄は発疹期ではなく、発疹1~2週間前に出現するかぜ様の症状の時であることが明らかになっています。つまり伝染性紅斑と診断されるようなときにはすでに感染性はなくなっているので、発疹があることを理由にその子どもたちを登校・登園停止にする意味がありません。ワクチンや特別な治療法はありませんが、通常は経過観察する程度で自然に回復します。先天性の貧血疾患があると重症貧血発作を起こすことがあるので、注意が必要です。妊婦が罹患した場合は胎児水腫を起こすことがありますので、検診をきちんと受けるなど妊娠経過をよくみる必要があります。ただ、風しんとは違って胎児に奇形などの障害を起こすことはありません。

 

3.マイコプラズマ肺炎

――マイコプラズマ肺炎とはどんな病気でしょうか?

この病気は、かつてはオリンピックがある年に流行して、オリンピック病などと呼ばれることありましたが、近年はその傾向はなくなってきています。通常は秋ごろから流行する傾向にありますが、最近はあまり季節差もなくなってきています。今年度は罹患者数が多く、現在(12月現在)も流行が続いています。肺炎とはいえ基本的には問題なく回復することがほとんどですが、脳炎・脳症、心筋炎、血液凝固障害などの合併症を引き起こすことが稀にありますので、その経過は注意してみておく必要があります。

多くの感染症でよく使用されるペニシリン系やセフェム系などの抗菌薬は効果がないので、マイコプラズマ感染と診断された時には、マクロライド系やテトラサイクリン系・ニューキノロン系抗菌薬が使われますが、小児ではテトラサイクリン系・ニューキノロン系は副作用などの点からあまり使われません。ところが、ここ数年、マクロライド系耐性マイコプラズマが増加し特に今年度はその傾向が強く、治療が長引く傾向にあります。残念ながら強い免疫を獲得することが出来ないので、マイコプラズマの感染を繰り返すこともあります。ワクチンもありません。

――この病気の対応は?

マイコプラスマ肺炎は、聴診で分かりにくいことも多く、レントゲンを撮ってみて初めて診断される場合もあるので、長引く咳や持続する微熱は要注意です。

主な感染経路は飛沫感染、接触感染ですが、友人間や兄弟間など濃厚な接触によるところが大きく、あまり感染力は強くありませんが、逆にだらだらと流行が長引く傾向があります。肺炎など病状によっては当然本人のために学校などを休む必要がありますが、基本的には、流行の拡大予防のために学校保健安全法に基づいた出席停止の措置をとるという必要はない感染症です。

 

4.ロタウイルス・ノロウイルス感染症

――ロタウイルス、ノロウイルスについて教えてください。

これらのウイルスは、感染性胃腸炎の代表的なもので、その症状は、腹痛や下痢、嘔吐、発熱などです。どちらかというとロタウイルスは年少者、ノロウイルスは年長者や大人の感染症であるといえます。またノロウイルスは秋口から冬にかけて、ロタウイルスは冬から春先にかけて、そして春先になると再びノロウイルスも現われるという傾向があります。

以前は、乳児には赤痢と対照的な「白痢」あるいは「白色便性下痢症」という病名で文字通り白い便となる下痢症がわが国には多く、その原因がロタウイルスであることが明らかとなりました。乳児のミルクや食事の変化からか、最近では典型的な白痢・白色便性下痢症はほとんど見られなくなりましたが、ロタウイルス感染による下痢症は今でも多く見られるポピュラーな感染症となっています。今年度には、ロタウイルスワクチンが登場しました。

ノロウイルスは、二枚貝などの生食や加熱不足による食中毒の原因でもありますが、感染力が強く、ウイルスは罹患者の糞便や嘔吐物にも含まれておりこれらも感染の原因となります。潜伏期間は感染後半日〜2日程度、激しい嘔吐・下痢、腹痛などがありますが、通常は無治療で2〜3日で治ります。

ノロウイルスもロタウイルスも下痢や嘔吐によって脱水を引き起こすことがあるので、食事を無理に取る必要はありませんが、きちんと水分を摂取するようにしてください。ことに小児や高齢者は重症化することがあるので気をつけてください。高齢者では嘔吐による窒息などにも注意する必要があります。

――予防や対応は?

ロタウイルスもノロウイルスも糞便や嘔吐物の処理の際にこれらに含まれたウイルスが付着しやすく、手指を介して感染する接触感染が多くみられます。ノロウイルスの場合はカキなどの二枚貝の生食や加熱不足、調理の際に汚染された手指の扱いにも注意が必要です。

嘔吐物を掃除機で処理したところ、掃除機の排気口から吐物に含まれていたノロウイルスが周囲に飛散して多くの感染者が出たという事例がしばしば見られます。床などに飛散した嘔吐物に含まれていたウイルスが埃のようになって舞い上がり感染源となる「塵埃感染」のあることも知られていますので、糞便や嘔吐物の処理には感染を広げないよう十分な配慮が必要です。学校や幼稚園・保育園などに向けた感染防止マニュアルなどがありますので、それらを参考にして処理をするようにしてください。

どちらのウイルスも予防の基本はやはり手洗いです。

 

5.季節性インフルエンザ

――最近のインフルエンザの状況を教えてください。

2009年に発生した新型インフルエンザ(パンデミックインフルエンザA/H1N1 2009)の大流行は記憶に新しいところですが、日本での死亡者は世界中で少なく、死亡率にすると例年よりも低いくらいになりました。これは医療機関も一般の人々も、多くの人が注意をしたためと思います。ところが、パンデミックが終了した昨年2010年は、逆に死者数は元通りに増えてしまいました。

新型インフルエンザウイルス(A/H1N1)が季節性インフルエンザとして流行するようになった一方、これまで流行していたA/H1N1(ソ連型)インフルエンザウイルスは世界中から消え去っています。日本などの北半球の季節の反対になる南半球の冬(日本の夏に相当)シーズンのインフルエンザは、北半球のインフルエンザの先駆けになりますが、2011年の南半球の冬には、H3(香港型)、H1(09型)、B型の流行パターンは地域によってばらばらで、どれが特に流行した、というものではありませんでした。したがってこれからインフルエンザシーズンになる日本を含む北半球では、いずれの型にも注意をしておく必要があります。

国立感染症研究所感染症情報センターと日本学校保健会が普及を進めている学校欠席者情報収集システムでは、先月(11月)あたりからインフルエンザの出席停止が少しずつ見受けられるようになりましたが、学校・学級閉鎖まで至った学校はまだほんの一部です。インフルエンザは例年では年末から1月にかけて大きな流行となりはじめるので、これからの注意はさらに重要となります。

――インフルエンザの予防と対応は?

インフルエンザの流行の程度は、年によって大きな差がありますが、流行の規模は小さくても、毎年多くの人が罹患する(多い年で国民の約15%、少ない年でも数パーセントがインフルエンザで受診)ので十分に注意することが重要です。

学校保健安全法で規定されている学校感染症では、インフルエンザの出席停止期間は解熱後2日まで、厚生労働省の「保育所における感染症対策ガイドライン」では、症状が始まった日から7日目まで、または解熱後3日までとなっています。これは、罹患した保育園児などの体内のウイルス量がほかの人にうつらなくなるまでの期間の目安ということで決められています。通常では5日程度で熱が治まりますので、発症(発熱)から1週間を目安と考えてもいいでしょう。抗インフルエンザ薬によって、早めに熱が下がる場合が多く見られますが、その後も少量ながら感染力のあるウイルスが排泄されることは稀ではないので、拡大の予防という観点では発熱から5日ないし1週間の登校登園停止が妥当であると考えられます。文部科学省では、現在、学校保健安全法における、インフルエンザを含む学校感染症の登校・登園期間の原則について再検討を行っているところです。

インフルエンザにはワクチンがあり、国内における小児へのインフルエンザワクチン接種は任意接種となっています。わが国では、小児(13歳未満)に対しては、2回接種が原則となっています。また今シーズンから、小児に対する1回あたりの接種量の変更が行われました。これまでは、0歳児0.1cc、1歳〜小学生未満0.2cc、小学生以上0.3ccが1回の接種量でしたが、今シーズンからは3歳未満0.25cc、3歳以上0.5ccとなり、WHOが推奨する接種量と同じになりました。

日頃の予防としては、感染症予防の基本である、うがい、手洗い、マスクの着用です。マスクは人からうつされないという効果よりは、人にうつさないという観点からの予防対策の考え方がより重要で、「咳エチケット」の意味はここにあります。人のために優しいマスク、とでも言えるでしょう。

 

6.RSウイルス感染症

――RSウイルス感染症とはどんな病気ですが?

RSウイルス感染症は、小児でもことに0歳から1歳児に多い感染症です。多くの場合はかぜ様の症状で治まりますが、ぜこぜこする喘息様の咳が長引いたり、気管支炎や肺炎の原因にもなりやすく、またまれですが突然死の原因にもなると言われています。飛沫感染、接触感染が感染経路で、再感染を繰り返しながら次第に免疫が強くなるので、再感染、再々感染では軽い症状に留まるようになってきますが、初感染時にもっとも重症化しやすく、注意が必要です。ワクチンは研究開発中ですが実用化されているものはありません。未熟児や先天性心疾患のある小児など、あらかじめ重症化が予想される子どもたちには、モノクローナルガンマグロブリン(パリビズマブ)が、RSウイルスシーズンである冬季に投与されます。

 

7.まとめ

この夏に流行った手足口病や伝染性紅斑のほか、ノロウイルスやインフルエンザなど学校や幼稚園・保育園で流行る感染症の感染経路は、飛沫感染・接触感染などが主になります。

これらの予防の基本は、手洗いです。手洗い・うがいは費用もたいしてかかりません。手洗いを日頃から習慣づけることで、飛沫・接触感染する感染症の流行抑制につながります。手洗いの時に重要なことは手を洗ったあと、きれいな布やペーパータオルなどで、きれいに手を拭くことで、タオルの共有は避けなくてはいけません。

手足口病やヘルパンギーナなどのエンテロウイルス感染症や咽頭結膜熱の原因であるアデノウイルスは、症状が治まっても長い間ウイルスが排出されますので、手洗いをきちんとしておく必要があります。

学校や教育委員会が感染症の流行の兆しを早期に検知するには、地域にある保健所等との連携が常にとれていなくてはなりません。学校欠席者情報収集システムは、学校、教育委員会、保健所、医師会等で情報を共有し、コメント欄を通じてどこでどんな症状、感染症で欠席した児童生徒が増えてきているかお知らせできる機能も備えています。ただ、自校の欠席者数を入力するだけでなく、そのような機能を活用し、教職員への啓発、保健だよりなどでの保護者・児童生徒への啓発や保健指導に役立ててください。

 

○学校欠席者情報収集システムとは

http://www.syndromic-surveillance.net/gakko/index.html