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ひとりひとりに成長曲線を描こう Vol.1

たなか成長クリニック院長
成長科学協会理事・日本成長学会理事長
田中 敏章

標準成長曲線


表1 身長体重表


図1 標準成長曲線(発育曲線)の記入例

私たちは、生まれてから大人になるまでの間に、何回身長体重の測定をしているでしょうか。生まれた時はもちろん、1か月、3か月、6か月などの乳幼児健診、幼稚園・保育園での健診、小学校、中学校、高校での身体計測を含めると、少なくとも20回以上は子どものうちに身長と体重を測定していると思います。これほど身体測定をしている国は、外国ではみあたりません。これらのデータを集計したものは、乳幼児身体測定統計や学校保健統計として報告され、全国の平均や県別の平均の比較などがされています。しかし皆さん、自分の、または子どもの成長記録を標準成長曲線の上に描いたことがありますか。子どもの大きな特性は、成長と発達です。成長に重要なものは、内因的な要素としてはホルモン、外因的な要素としては栄養ですが、そのほか感染・慢性疾患・愛情など、いろいろな要因が成長に関与してきます。したがって、子どもの成長が損なわれているときは、何らかの障害が働いている証拠です。これだけ頻回に測定されている身長と体重のデータは、子どもの健康のバロメーターといえます。しかし、測定した数字を眺めていてもなかなかわかりません。データを標準成長曲線に描くことによって、いろいろのことがみえてきます。

例えば、私が初診のクリニックで患者さんに記入してもらっている身長体重表(表1)があります。この子の主訴は夜尿でした。私のクリニックでは、患者さん一人一人に成長曲線を書いています。身長体重表だけを眺めていても何もわかりません。しかし、図1のように標準成長曲線に記入すると、成長がおかしいのが一目瞭然です。この男の子は脳腫瘍が見つかりました。腫瘍により尿を濃縮するホルモンの分泌が侵され、薄い尿がたくさん作られるために夜尿になっていたのです。同時に成長ホルモンの分泌も障害されていることが後の検査でわかりました。成長曲線をみると、すでに3年前頃より年間成長率が低くなってきているのがわかると思います。この図は日本学校保健会で販売している、個人の成長記録を簡単に標準曲線に書き込めるソフトで作成したものです。

図の標準成長曲線は、2000年の厚生労働省の乳幼児身体発育調査と文部科学省の学校保健統計調査より作成されています。標準成長曲線は10年ごとに作成されていますが、2010年のデータがでても当分の間は2000年の標準成長曲線を用いることが日本小児内分泌学会と日本成長学会の合同委員会での取り決めです。その理由は、わが国ではseculartrend(成長促進現象)が1990年ごろに終了し、身長は大きな変化がないであろうということ。しかし、体重は増えていく傾向にあるので2000年を標準として評価するのが適当であろうというコンセンサスによるものです。

標準成長曲線の作り方としては、標準偏差を用いる方法(SDスコアまたはZスコア法)とパーセンタイルを用いる方法があります。図はパーセンタイル法を用いています。身長の度数分布曲線は正規分布を示すため、多数の小児を母集団として平均値mean(M)および標準偏差standarddeviation(SD)が求められていれば、それを尺度として小児の身長を評価する方法がSDスコア法です。SDスコア法で表すとき、M±2SDの範囲内は正常範囲と考え、?2SD以下の児は、学問上低身長と定義されます。パーセンタイル法は、同性同年齢の子どもを100人集めて身長の順番に並べたときに自分より下に何人いるか示す方法です。SD法の?2SDは、2.3パーセンタイルにあたるので、同性同年齢の子どもが100人いたときには、2?3人が低身長という定義にあてはまります。パーセンタイル曲線のときは3パーセンタイルより低い場合に低身長と考えれば良いと思います。

体重は正規分布しないので、等間隔のSD法で体重の程度を評価することは出来ません。パーセンタイル法か変換したSD法の成長曲線を用いるのが正しい成長曲線の使い方です。

掲載日時:2015/04/23