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医薬品教育から生まれるよりよい医療

慶應義塾大学薬学部 教授 望月眞弓
(平成24年度版学校保健の動向「コラム」より)

 

医薬品の特性

医薬品はその特性として、「主作用」と「副作用」という2つの側面を持っている。「主作用」は、その医薬品の目的の効果を発揮するための作用を指し、「副作用」は目的以外の不利益となる作用を指す。この2面性故に、医薬品には、効果を最大に副作用を最小にするための使い方の決まりが定められている。この決まりを守って医薬品を使用することを「医薬品の適正使用」という()。

「医薬品の適正使用」という考え方は、1993年に厚生労働省「21世紀の医薬品のあり方に関する懇談会」がその最終報告書で、「医薬品の適正使用の推進」を掲げたことがきっかけで広く普及した。この報告書では「医薬品は情報と一体となってはじめてその目的が達成できる」ものであり、「適正使用が確保されるためには、医薬品に関する情報が医療関係者や患者に適切に提供され、十分理解されることが必須の条件である」と述べられている。ここでいう医薬品の情報には、医薬品の効き目(効能効果)、使用法(用法用量)、副作用、使用すると副作用の危険性が高くなる人(禁忌)、一緒に使うと危ない医薬品の組合せ(相互作用)などがある。医薬品を使う際には、医師、薬剤師のみならず患者もこれらの情報を知った上で正しく使うことが求められる。患者は医薬品の最終使用者であり、どんなに医師や薬剤師が適正使用のために注意を払っても、最終使用者が正しく使用しなければ副作用を最小化することは難しい。2012年度からはじまった「医薬品の教育」がこの適正使用への第一歩となることは疑う余地もない。

ところで、2012年1月に厚生科学審議会医薬品等制度改正検討部会は、血液製剤による薬害肝炎事件を受けて、「薬害」の再発防止を目標に薬事法等の改正に向けての提言を出した。この提言では、再発防止のための行政、製薬企業、医療関係者などの責務を明らかにするとともに、国民の役割についても言及し、「国民は、医薬品・医療機器等の適正な使用や有効性及び安全性の確保に関する知識と理解を深めること」と記している。国がとりまとめた医薬品に関する提言に、これほど明確に国民(患者)の役割が記述されたことはこれまでの私の記憶にはない。このように国民の役割が明確化されたということは、国民の医療の需用者としての成熟度が増したということを現すものともいえる。すなわち、自らの意志で自らの医療を選択する「患者参加型の医療」が現実のものとなってきたことを感じる。このような観点からも、「医薬品の教育」はまさに機を得たものであり、この教育によって子どもたちが、「医薬品を正しく使う」ことが何故重要か、正しく使うとはどういうことかの知識を得て医薬品に対する理解を深めることができれば理想の医療に大きく近づく。また、患者が賢くなることによって、医療関係者はさらに勉強せざるを得なくなる。その相互の刺激が日本の医療を良質なものへと育てると期待している。

掲載日時:2014/04/24