災害時における学校での 子どもの心のケア

災害時における学校での 子どもの心のケア

名古屋学芸大学大学院子どもケア研究科ヒューマンケア学部教授
釆女 智津江

子どもの心のケアの重要性とストレス症状の理解

 かつてない規模の東日本大震災が発生し、地震と津波その後の余震により引き起こされた災害は、人々に大きな傷を残し、心のケアが重要な課題となっています。家や家族・友人などを失ったり、命にかかわる強い恐怖や衝撃を受けたりした場合、強い不安やストレス症状が現れることが多く、こうした状態が長引くと、その後の成長や発達に大きな障害になることもあるため、子どもの心のケアが重要です。

 学校で心のケアを行うには、子どもに現れるストレス症状の特徴や基本的な対応を理解しておくことが必要です。

 子どものストレス症状の特徴は、小学校低学年では、腹痛、嘔吐、食欲不振などの身体症状や情緒不安、落ち着きがなくなるなどの症状が現れやすく、小学校の高学年以上(中・高校生も含む)になると、身体症状とともに、元気がなくなり引きこもりがちになる(うつ状態)、ささいなことで驚く、夜中に何度も目覚めるなど、大人と同じような症状が現れやすくなります。こうした反応は誰でも起こりうることであり、ほとんどが時間とともに薄れていきますが、生活に支障をきたすような症状が1か月以上持続する場合は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)といい、専門医による治療が必要となります。そのため、PTSD が疑われたら専門医へ受診させることが必要です。また、症状が災害からしばらくたってから出現することもあるので注意が必要です。

 

PTSD の特徴と基本的な対応方法

 PTSD の症状の特徴は、?体験した出来事を繰り返し思い出し悪夢を見たりする、フラッシュバック(再体験症状)、?体験したことを思い出せない、話題を避ける(回避症状)、?人や物への関心が薄らぐ、よく眠れない、集中できない、イライラする(覚醒亢進症状)などが現れることです。小学校低学年くらいまでの子どもの場合、ストレスを言葉でうまく表現できないことから、遊びのなかで災害時のことを表現していることがあるので、よく観察することが大切です。

 災害時における子どもへの対応の基本は、子どもが安心できる環境をつくり、子どもに安心感や安全感を取り戻させることです。具体的には、?ふだんとかわらない接し方をし、やさしくおだやかな声掛けをするなど安心感を与える。?症状は必ず和らいでいくことを本人に伝え、安心感を与える。?退行現象と呼ばれる一時的な赤ちゃん返りがあっても受け入れて安心できるようにする。?勉強に集中できなくとも、しばらくは温かく見守る。?怖がるときはしっかり抱きしめる。?子どもが努力したことは、しっかりほめて、自信をもたせるなどです。

 また、子どもに安心感を与えるためには、周囲にいる大人(保護者や教職員等)の心の安定がとても重要です。学校では多くの教職員も被災していることから、毎日放課後に情報共有する時間を設けるなどして、教職員の心のケアへの配慮を行うことも大切なことです。

 

組織的な取組を

 学校全体で心のケアを進めるに当たっては、普段から心のケアを危機管理マニュアルに位置付け、管理職のリーダーシップのもと、養護教諭をはじめ教職員が一丸となって組織的に取り組むことが大切です。災害時の子どもの心のケアにおける主な取組事項としては、次のようなことが挙げられます。

 ?子どもの被災状況の把握と心身の健康状態の把握、?心のケアに向けた校内体制づくり・役割分担の確認、?心のケアへの対応方針の決定と推進計画の作成(中・長期的計画)、?地域の関係機関等との協力体制の確立、?緊急支援チーム・ボランティア等の受け入れの検討、?報道関係機関への対応、?障害や慢性疾患のある子どもへの対応、?教職員間の情報共有、?教職員や保護者等に対する啓発資料の提供、?健康観察の強化(学校・家庭)、?必要に応じて家庭訪問や避難所訪問、?臨時の健康診断、?校内研修会の実施、?健康相談希望調査・心身の健康にかかわる調査、?健康相談・保健指導の実施、?学校医・学校歯科医・学校薬剤師との連携、?医療機関等の紹介、?スクールカウンセラー・心の相談員等との連携、?保護者や地域住民等との連携、?感染症の予防対策などです。これらを実態に応じて適切に進めていくことが大切です。

参考・引用資料
「子どもの心のケアのために」(文部科学省H22)

(会報「学校保健」289号より)

掲載日時:2012/01/23   

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