2012年の「はしかゼロ」をめざして [4]

学校での麻疹集団発生と麻疹対応の実際

~事前準備が最も重要、1人の時点ですぐ対応が合い言葉~
学校での麻疹集団発生と麻疹対応の実際

 2007年春の麻疹流行により、1学期のみで263の学校等が麻疹により休校し、その中でも特に多かったのが高等学校と大学で、156校を占めていました。こういった事態は国内では初めてのことであり、多くのマスコミがこれらの情報を取り上げました。また、同時に、ワクチンや検査診断キットが不足するなど、社会的な混乱にも発展しました。また、麻疹を既に排除eliminationしている国(南北アメリカ大陸や大韓民国など)では、国外からの麻疹輸入に極めて危機感を持って対応しています。2007年春、日本で麻疹ウイルスに感染した後、海外に修学旅行に行き、現地で麻疹を発症した日本の高校生がいましたが、一緒に行った生徒と職員はホテルに収容され、一時的に観光ができなくなるという事例が発生しました。また、同じく日本で麻疹ウイルスに感染した小学生が、スポーツ大会で海外に行き、現地で麻疹を発症し、その後周りの人が麻疹を発症したとして、世界中に情報が報じられた事例も発生しています。2007年1年間に、若者の一般旅行、修学旅行、スポーツ大会等により、日本からカナダ、アメリカ合衆国、オーストラリア、スイス、台湾に麻疹を輸出してしまい、国際問題にも発展しつつあります。

 これらのことから、学校では、新学年が始まったらすぐに、全校生徒と職員の麻疹含有ワクチン接種歴、麻疹罹患歴を調査しておくことが重要です。また、これらの調査は、母子手帳など、必ず記録にもとづいた情報を提出してもらうようにします。そのためには、接種日の情報やワクチンのロット番号など、母子手帳などを見なければ記載ができない情報を調査用紙に盛り込んでおく必要があります。あるいは、母子手帳の予防接種の頁をコピーして提出してもらうのも一つの方法と考えます。記録がない場合は、接種歴不明と考え、記憶による記載はしないことが重要です。記憶による調査は極めて不確かであり、その後の対策に大きな課題を残すことになりますので、ここは厳しく考える必要があります。また、「麻疹」を「風疹」と混同していることも多くありますので、麻疹は「はしか」、風疹は「三日ばしか」と呼ばれるけれども、2つは全く異なる感染症であること、片方にかかっていたとしても、他方を予防することはできないといった正しい情報の提供も必要になります。調査の結果、ワクチン未接種かつ麻疹未罹患、あるいは接種歴・罹患歴不明であることが判明した場合は、速やかに麻疹含有ワクチン(現在は、麻疹風疹混合ワクチンの接種が推奨されています)の接種を推奨します。ワクチンの接種を受けた場合は、学校に接種したことを報告してもらうことが重要です。報告がない場合は、再度、接種の推奨を行います。この事前対策を講じておくと、学校での麻疹の集団発生が起こる可能性が極めて低くなります。2008年2月現在、麻疹の流行は全国各地に広がっており、毎週、数百人規模で患者報告がなされています。2008年1月の累積報告数をみると、今年もワクチン未接種の10代を中心とした流行であることがわかります(図3)。もし事前対策が行われていなかった場合、2007年のように、麻疹による休校や学年閉鎖等の措置が必要になる学校が多く発生するのではないかと懸念されます。

 麻疹の流行は、そのピークは例年5月です。もし、「麻疹と診断されました」という報告を保護者から受けた場合、1名の時点ですぐに対応を開始することが重要です。まず、学校関係者、学校医、管轄の保健所、学校の設置者、所在地の市町村(特別区)、感染症の専門家を集めた対策会議を開催します。この時点で、関係者が一同に介して、情報を共有し、対策をすぐに開始することで、多くの生徒と職員を麻疹から守ることが可能です。現在の日本の現状では、事前準備がなされていなかった場合、1名の発症後10~12日前後の潜伏期を経て、数名の発症者が出ることを止めることはできません。しかし、1名の時点ですぐに保護者への情報提供と、可能な限り速やかに緊急予防接種を実施することで、その後発症する数十人規模の発症を予防し、集団発生を抑制することが可能です。接種不適当者に該当しない限り、麻疹ワクチン未接種かつ麻疹未罹患の人は、今すぐに予防接種を受けておくことが重要です。また、発症した人がつらい思いをすることがないような配慮が是非必要です。今の日本の現状では、誰がその立場になってもおかしくない状況であり、決してその人が悪かったわけではないということを伝えて、更に多くの人に広がることを予防するために迅速な対応が必要であるという情報提供は確実に行っておく必要があります。「1名だから様子を見ましょうか」、あるいは「数名だから様子を見ましょうか」と考えていると、1か月以内に学校全体の1割近くが発症する大きな集団発生に繋がります。

つづく

国立感染症研究所感染症情報センター 多屋馨子-

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http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/index.html2012年の麻疹排除(Elimination)を目標に、2007年8月厚生労働省において、わが国における「麻疹排除計画」が策定されました。これを機に、麻疹排除に向けた本格的な取り組みが国民ひとりひとりに求められています。

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電子図書館:学校における麻しん対策ガイドライン

掲載日時:2011/02/21   

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